「核と拉致の両方への対応が重要」
衆議院拉致問題特別委員会(2004年12月10日)


 2004年12月10日に開かれた「北朝鮮による拉致問題等に関する特別委員会」での北朝鮮への経済制裁に関する審議模様を整理して、掲載する。  委員会では町村外相、細田官房長官、村田国家公安委員長、杉浦官房副長官、松本総務大臣政務官らが各党の質問に答えた。(肩書は当時)  主な質疑事項は次の通りである。

1 北朝鮮に対する経済制裁に関して                         

2 拉致問題の解決方策について

3 北朝鮮が提出した資料等について

4 拉致問題の真相究明に向けた政府の姿勢について

5 北朝鮮との国交正常化によるメリットについて

6 経済制裁以外の解決方法に関する政府の見解

△赤城徳彦委員長


 −−横田めぐみさんのものとされた遺骨の鑑定状況について政府から説明を受けたい。

 村田公安委員長:新潟県警においては、その鑑定を帝京大学、科学警察研究所等の国内最高水準の研究機関等に嘱託した。12月7日、新潟県警は帝京大学より、骨方5個の中4個から同一のDNAが、また他の1個から別のDNAが検出されたが、いずれのDNAも横田めぐみさんのDNAとは異なっているとの鑑定の状況を聴取した。松木薫さんの遺骨とされるものについても、8日、帝京大学より松木さんのものとは異なるDNAが検出されたとの鑑定の状況を聴取した。  

△水野賢一(自民党)


 −−経済制裁の問題に絞って質問する。人道支援という名目で食糧支援を行っているがこれを打ち切るのか?

 町村外相:現在、WFP(世界食糧計画)から残り12万5千トンの支援の要請はまだない。WFP等の要請があったとしても、これに応ずることは難しい状況にあると考えている。

 −−支援の中止なのか、凍結なのか?

 町村外相:将来にわたってどうするかということを今ここで断定的に話すことは難しい。当面は行うつもりはないということだ。

 −−経済制裁について行う考えはないのか?

 町村外相:大臣就任後、経済制裁は一つの選択肢と言ってきた。そのことに変わりはない。現在、他の資料も外務省で分析中だ。その結果を見て、我々としては、その後いかなる対応するかについて決めていかなければならない。

 −−この鑑定を受けて、果して平壌宣言は守られていると考えているのか?

 町村外相:本件に対する北朝鮮の対応は平壌宣言の精神に反するものと考えている。この平壌宣言は今後の日朝関係を取り進めていくうえでの方向性を示す重要な政治文書である。そういう意味からこの政治文書に則って今後とも、諸懸案の解決に向けた対応を取るように北朝鮮に働きかけていくことが基本的な我が国の姿勢である。

 −−制裁が発動された場合には直接的な北朝鮮への送金が禁止される。迂回を摘発するのは難しいが、判明した場合、罰則がかかるのか?財務省の考えを聞きたい。

 井戸清人財務省国際局長:制裁の一環として送金等について許可制が発動された場合北朝鮮に向けて他国の金融機関を通じて送金する場合も、この制裁の対象にすることは可能である。

 −−携帯輸出の場合は、百万円以上の現金持ち出しの場合、これは北朝鮮に限らずどこに対しても届け出なければならない。金融機関を通じての送金は3千万円以上は届け出る必要がある。北朝鮮については1円以上は届け出にすることは今の法律で可能か?

 井戸財務省国際局長:今後、政府の対応の一環として北朝鮮向けの支払い及び現金の持ち出しに限り、これら報告、届け出の下限金額を引き下げることは可能だ。

△佐藤剛男(自民党)


 −−北朝鮮は経済制裁は宣戦布告と言っている。北朝鮮から弾道ミサイルが日本に向け発射された場合、日本に着弾するまでどのぐらいの時間がかかるのか?

 飯原一樹防衛庁防衛局長:北朝鮮のミサイルの能力について正確に言うのは困難だが、おおむね10分程度とみている。

 −−弾道ミサイルの保有状況は?

 飯原防衛局長:これも断定的には言えないが、一応1千キロメ−トル級のノドンだと、米軍関係者の証言として約百という証言がある。

 −−北朝鮮から弾道ミサイルの攻撃を受けた場合、自衛隊はどう対応するのか?

 大古和雄防衛庁運用局長:一般論として、その状況において個別に判断される。そのミサイルの発射が我が国に対する組織的、計画的武力の行使であると判断される場合には自衛隊第76条の規定に基づく防衛出勤により対処することになる。それから、その他の場合については災害派遣とかそういう枠組みを使用することになると思う。

 −−北朝鮮のミサイル攻撃に自衛隊で対応できない場合、米軍との共同対処というのが考えられるが、具体的にどのような共同対処をするのか?

 大古和雄運用局長:1千km級の弾道ミサイルについては自衛隊はこれに有効に対処しえるシステムを保有していない。日米間には日米防衛協力のための指針があるが、この中に「自衛隊及び米軍は、弾道ミサイル攻撃に対応するために密接に協力し調整する。米軍は、日本に対し必要な情報を提供するとともに、必要に応じ、打撃力を有する部隊の使用を考慮する」ということになっている。

 −−金融庁に聞きたい。北朝鮮系の信用組合が倒れたが、これに日本の税金が使われている。私の記憶だと、1兆円を超えているが、事実関係は?

 大藤俊行金融庁総務企画局参事官:他の破綻した国内金融機関と同様に預金者保護や信用秩序の維持といった預金保険法の趣旨、目的に沿って、同法に基づき所要の資金援助を行ってきたところだ。その内容は現在、金銭贈与額1兆1千4百4億円、資産買い取り額2千9百億円となっている。

 −−朝鮮総連に対する固定資産税はどうなっているのか?

 松本純総務大臣政務官:地方公共団体においては上程で定めるところにより減免を行っている例もあると聞いている。減免が必要かどうかについては地方公共団体の自主的な判断に委ねるのが適当だと思っているが、朝鮮総連施設への課税状況を調査するという方向で進めていきたいと思っている。東京はもとより、全体的に、年度的に、可能な範囲で実態の把握に努めたい。

△漆原良夫(公明党)


 −−警察庁に聞きたい。めぐみさんのものとされる遺骨についてはDNA鑑定が不可能という工作をしたうえで出してきたのでは?

 瀬川勝久警察庁警備局長:骨は高熱で焼かれ、細かくなっていた状態であった。こういった骨を焼くということは、DNA鑑定は一般的に言って非常に困難になるということだ。何らかの意図的なことが行われたのかどうかについては、いわゆる検体、骨の状況から判断するのは、客観的に言って、非常に難しい。

△赤嶺政賢(共産党)


 −−北朝鮮が以前提供した松木薫さんの遺骨とされた骨についても別人のものであることがすでに判明している。虚偽が連続している。このような虚偽が連続する理由をどう考えているのか?

 町村外相:二つの遺骨とも虚偽であった。なぜなのか。正直言って、それがわかれば苦労はしない。誠に不可解極まりない北朝鮮の行為だと思っている。いろいろな推測はできるが、政府の立場上、推測を申し上げるのは差し控えたい。

 −−北朝鮮側の交渉担当者に交渉能力があるのか?第2回協議では宋日模外務省副局長が、第3回協議では陳日宝人民保安省局長が特殊機関の協力が得られず調査が極めて難しかったと述べている。この点について政府はどう考えているのか?

 藪中三十二外務省アジア太平洋州局長:金正日国防委員長が白紙に戻して再調査をするとして出てきたのが調査委員会だ。陳日宝人民保安省局長はその責任者だから、こことまずやるしかない。

 −−北朝鮮側の交渉担当者を、拉致問題の全貌を知っており、問題の解決に責任を負うことができ、権限を持った人物にすべきだが、官房長官の考えを聞きたい。

 細田博之官房長官:当然ながら、交渉当事者は本当に全貌を知っているのか、問題の解決に責任を負うことができるのか、権限を持っているのか、このような虚偽の結果が出てくると、疑問を持たざるを得ない。  

△中川正春(民主党)


 −−どうして経済制裁をこの局面でやらないのか?あるいはやるべきでないと判断しているのか?その理由は何か?

 町村外相:経済制裁は手段であって目的ではない。横田めぐみさんの遺骨と称されるものが偽であることは昨日判明した。そして、いま持ち帰った資料を鋭意分析しているところだ。遠からず、それをまとめて、その分析結果を踏まえた上で今後の対応を検討していく。その対応の中に経済制裁も選択肢の中に含まれている。

 −−これまでの例から言えば、過去にも死亡届けだとか、カルテは捏造されたものがあった。今回の部分についても、そういうものが出てくる可能性がある。偽ものが出てきたら(制裁を)発動するのか?

 町村外相:そういうたぐいの設問は、まさにこれからどうやって外交交渉をやっていくかに関わってくる問題だ。こうなったらどうするのかということを全部ここで喋ったら誰が喜ぶのか、考えてもらいたい。

△長島昭久(民主党)


 −−政府は実務者協議を重ねていって、安否不明の十人の方々の問題を、証拠を調べているとか、鑑定中だとか言って、これを徐々に動かしながら、最終的には国交正常化に持ち込みたいのでは?

 町村外相:この安否不明の十名、あるいはもうちょっといるかもしれないが、こうした方々の問題がしっかり解決されるまでは直ちに正常化交渉に入れるはずはない。入る状況には全くない。そこを適当にしておいてすぐ国交正常化に行くであろうという委員の指摘は当たっていない。

 −−2年前の9月17日に平壌を訪れた総理の頭の中にあったのは、国交正常化をしたい、これが大目標ではなかったのか?

 町村外相:最終的にはいろいろな障害が取り除かれれば日朝国交正常化をし、北朝鮮という国を国際の場に引き出す。既に幾つも国が国交を持っている。一番近い日本が国交を持っていないという状態は不正常だと私も思う。そういう意味では、いずれの日か国交正常化を、いろいろな幾多の障害を乗り越えても最終的には国交正常化にもっていく、日本と遠くて近い国ではなく、できるだけ近くて近い国にもっていきたい。それは小泉総理ならずとも、私は政治家としてあるいは外務大臣として、それが大きな目標であることは事実だ。

 −−それでは、日朝の国交正常化で得られる日本にとっての利益、国益は一体何か?

 町村外相:何といっても、安全保障上の理由が一番大きい。どういう国かも正直わからない、国の意図もはっきりしない、どういう軍備が配備されていて、ミサイルがどう配備されているかもわからない。場合によっては核兵器を持っているかもわからない。こういうごく近いところにそういう実情のわからない国、政府、国民がいるということは、日本国にとって、国民一人一人にとっても、それはとても不安材料になるわけだ。そういう国々に対する、より透明性を国交正常化を図ることによって増していくことはまず誰しもが考えつくわかりやすい国としてのメリットだ。また彼らにとっても、開かれた国になって、そしていろいろな国々ともっと活発な交流が進む。経済交流、人的交流、いろいろな面の交流があると思う。そういった交流が図れることが、我々にとっても、彼らにとっても望ましい姿だと思う。

 −−圧力が北朝鮮には最もふさわしいと思う。我々はこれから決議して、経済制裁を是非今、この時点で発動すべきだ。あの体制を前提にした協議を続けるのではなく、あの体制の転換を視野に入れた、制裁をやった場合の効果とリスクについての政府の意見を聞きたい。

 町村外相:それを言うと、日本政府がどういうことを考えているかを相手方に全部教えてしまうことになる。我々は先方の手の内というのは、少なくとも公式にはわからない。そんな情報のアンバランスを生んでおいて、まともな交渉はできない。

△渡辺周(民主党)


 −−政府内では経済制裁に関するシミュレ−ションをしているのか?

 町村外相:いろいろな条件を置いてのシミュレ−ションは当然のことだが、やっている。

 −−我が政府が行ってきたこれまでの経済制裁の実例を示してもらいたい。

 小手川大助財務省大臣官房審議官:今までの具体的な例としては、例えばアフガニスタンのタリバンに対するもの、それからいわゆる世界的なテロリストに対するもの等、これは国連の安保理事会の決議に基づいてやっている。それからイラクの前政権の関係諸機関等についても同じく安保理事会の決議に基づいてやっている。

 −−北朝鮮が捏造したことを認め、何らかの謝罪がない場合は、次の交渉は進めるべきではない。

 町村外相:第3回実務者協議の結果得た資料に基づく、分析に基づく我が方の対応ぶりをそこで決める。当然、それを先方に伝える。どういうレベルで、どういうル−トで、これはまた先方に伝える内容も含めてきっちりとそれをした上で、ただ言い放し、それで終わりにしたのでは何の意味もない。

△松原仁(民主党)


 −−拉致における最高責任は金正日が担うというふうに思っている。最終的にこの問題の解決は、金正日体制の崩壊しかないというのが率直な印象だ。今回の遺骨が赤の他人のものであったということは明らかに平壌宣言の精神に違反していると意識しているのか?

 細田官房長官:その精神に違反することは確かだと思っている。

 −−圧力を加えながら交渉する方に変えなければ実は取れないのでは?

 細田官房長官:我が日本にとって1億2千数百万人の生命財産にとってもう一つ大きな核問題もある。6か国協議で破棄させようと協議しているが、(北朝鮮は)応じていない。(拉致と)どちらが重要だということではないが、この両方についてしっかり対応しなくてはならない。