「北朝鮮には対話よりも圧力を」
衆議院外務委員会(2004年3月)


 2004年3月に開かれた衆議院外務委員会での審議を掲載する。  (質問者は末松義則、今野東、加藤尚彦ら民主党3議員と、自民党の木村勉議員。答弁は、川口順子外相と齋木昭隆外務大臣官房審議官の二人=肩書は当時)

〔2004年3月2日〕


 末松議員:拉致の問題について聞きたい。6者協議の中で拉致問題は具体的に正式の議題として上がったのか?

 齋木審議官:特段、議題として上がったことはない。

 末松議員:全体会合の中で拉致問題について日本は触れたのか?

 齋木審議官:全体会合の初日、基調演説の中で藪中アジア太平洋州局長が拉致問題の解決についてきっちりと言及した。

●韓中ロの3か国に働きかけを


 末松議員:これに対して他の国から何かのコメントあるいはそれに言及するような言辞はあったのか?

 齋木審議官:米国代表のケリ−国務次官補の発言があった。拉致問題に関して明示的な言及があった。拉致問題を含む人権問題の解決が必要であるという趣旨の発言がケリ−代表のほうから明確にあった。

 末松議員:この外務委員会の小委員会でもでも藪中局長が前の審議の中で拉致問題については6者協議の中でしっかり話していくと言っていたけど、拉致問題が解決されなければ、日朝国交正常化もありえない、日本の支援もないという強い立場についての言葉は一切なかったのか? 

 齋木審議官:日本代表からは、拉致、各、ミサイルなど諸問題が包括的に解決することが極めて重要であると述べ、その早期解決を迫った。包括的に解決されて初めて、日朝国交正常化が行われると。

 末松議員:韓国は拉致問題について前向きではないと聞いているが、韓国に対して全体会合できちんと支持してくれとの要請はしたのか?

 齋木審議官:韓国との間では6者協議に限らず、6者協議に先立っても様々なテレベルで協議、意見交換をしている。韓国側からは日本の立場について明確な理解と支持を得ている。

 末松議員:明確な理解と支持を得ているのなら、どうして全体会合の席で韓国が日本の立場について明確な言辞を行わなかったのか?

 齋木審議官:(韓国が6者協議で拉致について触れなかったことについて)韓国政府の判断、これは私どもとしても尊重しなければと思っている。

 末松議員:中国とロシアに対しては働きかけを行ったのか?

 齋木審議官:ロシアや中国についても日本の立場については理解と支持をしてくれている。また、ロシアも中国もそれなりに水面下で彼らにできる外交努力を実際にやってくれている。6者協議の全体の会合の場でどういう発言をロシアと中国が行うことが適切であったか、より望ましかったかということについては私自身、ここで申し上げるのは差し控えたい。

 末松議員:6者協議の場で言ってもらうことが大きなシンボリックな意味を持っていると思う。この問題がおかしいということを中国もはっきりわかっているのであれば、北朝鮮に対して中国からもっと働きかけてもらいたい。中国に対してこの前言っていただかなかったのは残念であるという具合に迫る気持ちはないのか?

 川口外相:外交というのは、シンボリックに言うことも重要だが、静かに働きかけていくという側面もなければ、物事が動かない。日本の立場は立場として、中国は中国の考え方によってこれをやっていると考えている。

●拉致問題の解決の終点はどこか


 末松議員:拉致問題の解決はどこが終点になるのか?この前のこの委員会では家族の帰国の話、10人いる失踪者の真相究明、そして特定失踪者の特定という話だが、北朝鮮にどこまでが解決なんだということを示したのか?

 齋木審議官:ピョンヤンに残っている8人の早期無条件一括の帰国を実現することが大事だ。第二に、残り10人についてもきっちり調査をして、我々が納得する形でその結果を我々と共有すべきであるということを申し入れた。我々は、ご家族の納得がしかっり得られるような形で拉致問題が解決されない限り前には進めないということを言っている。

 末松議員:日朝間で委員会をつくるということについては提案したのか?しなかったのか?

 齋木審議官:10人の調査をしっかり進めていくためにも合同調査、合同委員会的なものをつくるということについてもこちらからの提案として投げかけている。

 末松議員:特定失踪者の場合はどうなのか?10人以外は対象外なのか?

 齋木審議官:追加的に我々としては様々な情報収集を警察当局を主体として進めていく中で、追加的な認定というのが当然行われるていくと思う。それはそれで、北朝鮮当局に情報提供を当然求めていく。

 今野議員:拉致問題の解決のためにあらゆる手段を取らなければならないと思う。外務省として、これから先、そのほかに取り得る手段があるとすれば、どういう手段があると考えているのか?

 川口外相:拉致問題を解決するために何をしなければいけないのか、それは、その時の状況で考えていかなければならない。国際的な場での働きかけ、二国、あるいは多国間での働きかけ、これはますます強化しなければならない。それから、それ以外の問題、これは今全部必ずしも申し上げる立場ではないと思うが、あらゆることをやっていくことが非常に重要であると思う。

〔2004年3月12日〕


 木村議員:拉致問題打開のため外務省はどういう取り組み方をしているのか?

 川口外相:6者の場でも、包括的な解決と言っている。核の問題ももちろんだが、その他の日朝間の懸案事項を解決して、そして国交正常化をする。国交正常化をしなければ経済協力はしないと言うことも言っている。こうした基本方針は一貫して変えていない。

 木村議員:米国人が拉致された場合、こうした日本のような外交を中心とした交渉をするとは私には思えないが、米国が日本の立場だったらどういう態度を取ると思うか?

 川口外相:米国も北朝鮮の問題については、平和的に、外交的に解決するということで意見は一致しでいる。米国自身、今、北朝鮮との間では、朝鮮戦争当時に亡くなった兵隊の遺骨の収集問題についても話し合っているが、そうしたことについて粘り強く米国は北朝鮮との間でやっていると聞いている。

●金正日体制を壊す政策を


 木村議員:韓国の北朝鮮政策、金大中(前大統領)の時の包容政策、現在は平和繁栄政策ですが、韓国自身にとってもその目的を達し得てない失敗と考えている。外相評価は?

 川口外相:小泉総理は、朝鮮半島の恒久的な平和定着及び北東アジアの地域の繁栄を成し遂げるための韓国政府の平和と繁栄政策への支持を表明している。

 木村議員:対話と圧力という方法で解決しようにも見通しもつかないし、時間がどんどん経過していく。時間はどちらに有利なのか、日本にプラスなのか、北朝鮮にプラスなのか?

 川口外相:拉致問題が解決しない限り、正常化も経済協力もしないので北朝鮮は解決を迫られていると考えている。時間が北朝鮮にあって、北朝鮮は黙って見ていれば、有利であるというふうに考えているとは思わない。

 木村議員:時間的余裕を与えずにもっと圧力を強めていく政策を展開すべきだと思う。それともう一つ、この地域の平和のためには金正日体制を壊すことだ。あの体制との話し合いを今しているが、もっと広く、体制崩壊までも考えて日本の取るべき政策を展開したらどうか?外国の情報を北朝鮮の国民に知らせれば、世界の中で北朝鮮がどいう立場にあるかがわかる。それによってそういう状況を必ず打破する動きが出てくる。そういうところまで日本の外交政策の目を広げたらどうか?

 川口外相:私は、北朝鮮のリ−ダ−シップ層は世界の情報について十分に把握しているとみている。かなりきちんと把握し、かつ分析もしていると思う。例えば、ここでの北朝鮮についての論議、日本の状況についてもフォロ−していると思う。

 加藤議員:対話と圧力、即ち、平和的に話し合うという一方で、悪い言葉だが、ドスを懐に入れて話そうと言ったって無理だと思う。ところで、北朝鮮と国交のある国は何カ国あるのか?

 齋木審議官:北朝鮮と外交のある国は153か国。北朝鮮が在外公館を設置している国は42か国。そしてピョンヤンに在外公館を有する国は23か国と承知している。

 加藤議員:6か国協議の先の日程も決まらないし、それを逆に北朝鮮が切り札にしようとしている。同時に北朝鮮は152か国と、しかも42の外国に公館を持っている。自国に23国も在外公館を持っている国がある。これらが一斉にもう北朝鮮から公館を引き払う。そうなれば、大変なことになる。

 川口外相:北朝鮮に対して、どのような手法あるいは方法をどのような局面においてとっていくかということは、常に、外交当局にとってもあるいはそれを見ている国民にとってもいろいろな意見があると思う。理解と支持を得るだけでは北朝鮮に対して力にならないという指摘はそういった部分も確かにあると思う。先生は一例として、公館を引き揚げというふうに言ったが、それをやるべしと言ったとは思わないが、北朝鮮が国際社会に触れていることは何より重要なことだ。北朝鮮を孤立してしまうことからは前向きの動きは出てこないと思う。ということは、詰めて言えば、対話と圧力ということをどういう状況でどのように使っていくかが問題である。

 加藤議員:いわゆる対話と圧力部分で、我が国は改正外為法とか、あるいはこれから一つ、二つと次々に切り札として国会で続けていくと思うが、政府、外務省が使う対話と圧力というその圧力部分をもし認めるとしても、これは国際世論を高めるものに是非しなければならない。◆