「科学鑑定結果に確証はあるのか」
衆議院外務委員会(2005年2・3月)


 横田めぐみさんのものとされた遺骨鑑定をめぐって日朝間の対立は続いている。「偽物」との日本の鑑定に北朝鮮は「捏造」と反論している。また、めぐみさんの夫であることが判明した金英男さんもその後記者会見に現れ「間違いなく妻の遺骨である」と反論している。  日本政府は鑑定の結果「にせもの」との結論を下し、北朝鮮の不誠実な対応を批判しているが、鑑定した帝京大学講師が世界的に権威のある科学雑誌「ネイチャ−」とのインタビュ−で語った内容が問題となり、衆議院外務委員会で取り上げられた。 何が問題なのか、質問者の首藤信彦民主党議員の2度にわたる対政府質問と町村信孝外相の答弁を掲載する。(肩書は当時)

〔2005年2月23日〕


 首藤議員:遺骨の問題だが、3か所に調査を依頼した。A,Bは結果が出ない。要するにわからない。それからCで、帝京大学の吉井富夫講師がミトコンドリアの分析で、他人のものであることがわかった。それで日本国中が怒った。しかし、何と2月23日の「ネイチャ−」、世界で最も権威のある科学雑誌だが、この雑誌に、科学的に言うと、そんなことは全然言えないとの論文が出た。これは大変なことだ。

 世界では事実上、日本の言ったこと、外務省が言ったことを否定したわけだ。吉井講師自身がこれは科学的な分析であるけれども、社会でそれを認知するにはまた別の手続きが要るということを書いている。やはり常にこのDNA鑑定に関しては、コンタミネ−ションという、要するにどこかで間違った形で遺伝子が入ってくる可能性もある。では果して、A,B,Cであって、Cしか確証できなかった、要するに3分の1しかなかったものを、そして国際的にもチェックせず、そのサンプルを国際的な機関に依頼してクロスチェックせずに北朝鮮の不誠実な証拠として突きつけるのは外交的にどうかと思うが...

 町村外相:そのような論文が出たことは承知している。DNA鑑定の知見を有する専門家がまず検出できる骨片というものを10個選び、慎重に選定し、警察当局から国内の最高水準にある研究機関等に鑑定を嘱託した。10のうち5つを帝京大学に渡した。そのうち4つから同じDNAが検出され、また他の1個からも別のDNAが検出された。しかし、そのいずれもが横田めぐみさんのDNAとは異なったという結果が警察の方から届いた。警察が最も信頼するものとして依頼をした帝京大学の結果ということで、まあそれは正しいと思っている。それで直ちに先方に反論した。今からでも遅くないから第三国、第三者機関にもう一度やったらどうかということだが、北朝鮮側が不誠実な対応を早く改めることが重要で、余りDNA論争に入っていくと肝心の主張がぼやけてくる。さらにこれからどこかの外国の機関に委託をして、再鑑定をやる考えは今のところない。

 首藤議員:警察の科学鑑定も頼んでいるが、警察は白骨化した遺体のDNA鑑定、火葬された白骨鑑定に関しては非常に否定的な論文を幾つも書いている。だから、警察自身がサンプルを受け取った時、拒否されたのでは。不誠実だったという根拠を(相手に)見せなければならない。我々は確証を持たなければならないのにこれではあまりにも足元が弱すぎる。

〔2005年3月30日〕


 首藤議員:北朝鮮が横田めぐみさんの遺骨と称するものを出してきた。それを科学分析に回したら偽物だった。それで12月から一挙に緊張感が強まり、日本は小泉総理が約束した人道支援まで打ち切ってしまった。遺骨が偽物だったことで、(北朝鮮は)かくも不実な国だ、我々を馬鹿にしている国だと、一方的に言っているが、その科学分析について学雑誌「ネイチャ−」に「葬になった骨の断片からは今の技術でミトコンドリアのDNA発見されないというのが科学的知見であり、発見されたとしても科学的にそれを確証できいという」記事が出た。私は、世界を代表するような科学雑誌の「ネイチャ−」がそういとを発表したことに驚いた。さらに、その後、「ネイチャ−」は日本政府のやっていること科学を政治で歪めることだと社説で書いている。この雑誌は世界を代表する科学者、何十人の科学者が見ている。「ネイチャ−」の言っていることに日本も反論できなければ科学を本が悪用しているんではないかとの批判に答えられないわけだ。

 「ネイチャ−」だけでなく、韓国にも大変強烈な批判がある。例の有名な地下鉄の火災事件があって、地下鉄で犯人がガソリンをまいたため数百人を超える人が焼死体になった。その焼死体の中の焼けた骨からは一切DNAは発見されなかった。それと、米国での「9.11テロ」でもDNAが残りやすい状況にあったにもかかわらず何と4割が確定できなったと言われている。それがどうして日本で認められるのか。それが認められるならば、日本の科学水準が本当に怪しい、政治が歪めているとの評価が定着してしまうと、世界で通らなくなる。「ネイチャ−」の社説が出て、世界中から日本の検査に関しては大変な批判がある。日本政府はどのように対応するつもりか。

 町村外相:「ネイチャ−」が立派な雑誌であることは承知しているが、一々の報道等には、それは必要があれば、反論してもいいが、私どもは一々それについては言う必要はないと、考えている。取材を受けた関係者(鑑定した帝京大学の吉井講師)に対しても、直接というよりは捜査当局の方から事実関係を確認している。取材の中で、焼かれた骨によるDNA鑑定の困難さを一般論として述べたようだ。当該鑑定結果が確定的でないという旨を言及したわけではないと、その方が言っていると我々は聞いている。いずれにしても当該報道が、私どもがやったこの鑑定結果に何らかの影響を及ぼすものではない、と我々は判断している。

 首藤議員:それは違う、外務大臣。これは、日本のあるいは東アジアの安全が絡むかもしれない大きな問題だ。もっと大きな深刻な問題になった時、あるいは日本が国際社会で拉致問題を解決するために訴えてその起点がどこにあるか論争になった時、日本の態度というものが、こんなに非科学的なことと日本が主張してきたことが明らかになれば、我が国は名誉を失ってしまう。私自身は、その雑誌に記事を書いたシラノスキ−記者にインタビュ−して詳しく聞いてみた。すると、それを分析された吉井講師自身が、これは驚いた、自分でもまさか出てくるとは思わなかったというぐらいで、たまたま出てきたということのようだ。

 問題は嘘ということではなく、吉井講師自身が認めているように、骨というものはまるでスポンジのようにいろいろなDNAを吸収してしまう。そこで人が話をしてて、例えば、唾が飛んでいったりあるいは何か生態の微妙な飛沫、汗とか空気の中の湿気とか、そういうものでもDNAというのは吸収されていく。例えば、違うというならば、他の人のDNA、ミトコンドリアが出るというならば、例えばそこの研究室にいるすべての女性のDNAのチェックなどが本当に必要になってくる。この問題がどういうふうにされたかは大変疑問だ。科学的な証拠だとして、外交関係を断絶するぐらい大きなことをやり、それが6か国協議の障害になっている。政府の責任というのもあまりにも大きいと思う。

 問題なのは、もう1回骨を出してくれと言ったら、それは実験の過程で粉砕しちゃってなくなってしまったと。証拠がなくなったら、反論しようがないではないか。いかに北朝鮮の備忘録がインチキだからと言って、こちらも立証できなければいけない。分析の件だが、クロ−ン化していくわけで骨からDNAを取り出すのではなく、ミトコンドリアのDNAをクロン−化していく、いわゆるネステッドPCRという方式で吉井講師が独自でやっているわけだが、当然のことながら、その結果として出たものは何からの形で残っている。骨自体は粉砕し、それを溶液に浸して溶かしてしまったかもしれないが、その結果を遺伝子に写したプライマ−や、あるいは、細菌とかそういうものに写したら、それはそこのコロニ−が当然のことながら残っているわけだ。残っているのか?残っていなかったら、それは証拠を隠滅したことになる。警察の意見を聞きたい。

 瀬川勝久警察庁警備局長:いわゆるコンタミネ−ション、汚染の可能性について指摘されているが、その問題については、鑑定人において十分考慮され、骨片を十分に洗浄した上で鑑定を行ったと聞いている。その表面を洗浄した液からはDNAは全く検出されてないということだ。骨表面の汚染物資によるDNA鑑定の結果ではないということが鑑定書の中においても明らかになっている。それと、DNAの増幅物の保存の件だが、具体的な鑑定内容については捜査上の問題なので差し控えたい。一般論として言うならば、こういった鑑定に際しては鑑定の客観性を確保するために可能な範囲で再鑑定のための考慮というものが払われているものである。

 首藤議員:それはおかしい。科学警察研究所(科学研)を持っているにもかかわらず一私学の、一講師がやっている研究機関が日本の最高水準というならば、科学研は廃止したらいい。当然のことながら、クロスチェックをして、こういう国際的問題だったら、国際機関にも頼んでやって、それから例えば、ネステッドPCRの結果、サンプルが残っているならば、今提示したらどうか。我が国にも吉井講師以外にもいろいろな法医学の専門家が大勢いて、その方たちが見て、それは間違いない、確かにそうだ、コンタミネ−ションではないということがわかれば、それはそれでまた一つの外交をバックアップすることに なる。どうしてそういうことをしないのか?吉井講師に会う必要があると思っているが、吉井講師が何と、科学研の研究課長になってしまった。科学研への出向ならばいざしらず、一民間人のおよそ警察的な訓練を受けていない人が警視庁の科学捜査の、捜研の職員になったということは、証人隠しではないのか。北朝鮮のやっていることも言っていることもでたらめだと思う。しかし、相手がでたらめだからこちらもでたらめをやっていいということにはならない。客観的に言うと、これは韓国でも米国でも、この「ネイチャ−」を見た人からもぼろくそに言われている。なぜ、こんなインチキなものをやったのかと。二つしかない。一つは、北朝鮮との間はもう完全に国交を断絶するつもりでバンとぶつけてやる、あるいや、横田めぐみさんが本当にどこかに生きているとの確証を持っていて、だから遺骨なんか全部嘘なんだということを考えているのでは。どちらのケ−スか?外務大臣に聞きたい。

 町村外相:我が方の科学的鑑定のその信憑性を真に疑わしめるような発言は大変残念に思う。◆