「経済制裁のタイミングが問題である」
衆議院拉致問題特別委員会(2005年7月21日)


 北朝鮮の核問題を討議する6か国協議が進展したことで日本政府は拉致問題で新たな対応を迫られることになる。日本単独の経済制裁は可能なのか?2005年7月21日に開かれた衆議院拉致問題特別委員会での審議を掲載する。

 答弁者は相沢一郎外務副大臣、矢部哲国土交通省海事局長、岡崎浩巳総務省大臣官房審議官、井上正幸文部科学省国際総括官、中野正志国土交通大臣政務官、佐々江賢一外務省アジア太平洋州局長、杉浦正健内閣官房副長官、瀬川勝久警察庁警備局長(肩書は当時)

▲福井照議員(自民党)


 −−経済制裁に関する基本的なスタンスについて聞きたい。

 相沢副大臣:国内のさまざまな世論、家族会の方々の強い思い等々、総合的に判断しながら、いかなるタイミングで、どのような方法で、何をすることがこの拉致問題の解決に向けて物事を前進させるか、そのことに引き続き真剣に検討していきたい。

 −−改定油濁損害賠償保障法が3月1日に施行されたが、外国船舶全体と北朝鮮船籍の証明書発効状況を知りたい。

 矢部海事局長:6月末現在で一般船舶保障契約証明書を1、430件交付している。このうち北朝鮮籍舶船に対しては27件交付した。この法律の遵守状況を確認するために入港船舶に対しては6月末までに1、887件の立入検査も実施している。北朝鮮籍船舶は18件の立入検査を実施した。検査の結果、違反船舶に対し70件の行政命令を発出したが、このうち北朝鮮籍船舶については3件行政命令を出している。

▲宮路議員(自民党)


 −−朝鮮総連に対する地方公共団体レベルにおける数々の優遇措置の問題について聞きたい。先般熊本地裁で拉致被害者の家族らを支援する救う会熊本が減免措置の無効確認、あるいは減免額の市への支払いを求めた裁判について判決が出た。数多くの市町村において、同様の措置を取っているとの話を聞いている。どういう実態になっているのか?

 岡崎官房審議官:朝鮮総連の施設について全部把握しているわけではない。地方本部が置かれている49団体については把握したものがあるが、それによると税額の全部または一部を減免されている団体は、34団体ある。

 −−我が国政府は、拉致の問題解決なくして経済的な支援はしないと言いながら、自治体の方は、固定資産税をまけてやっている。日本からすると、反国家的な活動をしている団体に税制上の優遇措置を取っている数多くの団体がある。こういうことを許してもいいのか?

 岡崎官房審議官:固定資産税の減免というのは、地方税法の規定によって各団体が公益上の理由などによりまして必要な場合にそれぞれの条例で定めて行っているものだ。基本的には各地方公共団体の自主的な判断に委ねられる。朝鮮総連関連施設の課税の取扱についても当該施設の使用の実態あるいは他の施設との均等など、それぞれの実情に応じて各団体で判断していく以外にないと考えている。

 −−朝鮮学校に対する補助金問題はどうか。法的根拠、どういう理由で補助が行われているのか?

 井上国際総括官:朝鮮学校を含む外国人学校は、そのほとんどが各種学校として都道府県から認可されており、国としての助成は行っていない。地方自治体はそれぞれの判断で助成を行っているが、平成15年度実績で、都道府県が合計で約6億8千万円、市町村が合計で約2億3千万円、合計で9億1千万円を朝鮮学校に対して助成していると承知している。

 −−一般の外国人ならまだしも、朝鮮学校に対して9億1千万円をやっているとは。先程の固定資産税や都市計画税と同じように国民感情を逆撫でするというもので言って過言ではないと思う。それと、27隻の北朝鮮船舶の保険会社はどこか?

 矢部海事局長:一般船舶保障契約証明書の交付27隻について25隻はMMIAニュ−ジランドという会社で、残り2隻はサウス・オブ・イングランドという保険会社である。

 −−MMIAという会社は信頼度に極めて乏しい。怪しげな会社である。自民党の拉致対策本部でもこの問題が取り上げられ、緊密に調査するよう強い要請が出た筈だ。どのような調査を行ったのか?

 中野政務官:某新聞に「国交省ずさん審査」と大見出しの記事が出ていたが、国土交通省は一般船舶保障契約証明書交付申請書及び添付書類などを基に厳重に審査を行ってきた。MMIAについても、ニュ−ジランドの法令に基づき適正に設立された保険会社で、加入船舶も相当数ある。ちなみに512隻ある。また、資産や再保険契約についても確認したが、再保険契約についてはロイズ及び国際再保険会社、一つの事故当たりだが、上限として2、500万ドルという再保契約について確認している。国土交通省では、十分な審査を行い、法令の規定に適合した保険者であると判断して、最終的に証明書を交付した。

 −−MMIAの言わば身元調査、その信用度の調査を外務省がどの程度やったのか?

 佐々江局長:国土交通省から2月18日外務省に対して本件に関する調査依頼があった。即刻、ニュ−ジランド、英国、インドネシアに対して調査を命じた。調査をしたのは、基本的には設立根拠法、過去に発給した証明書に関する事実関係が中心で、会社の詳細についてはすべて調べるに至ってはいない。

▲原良夫議員(公明党)


 −−官房長官は昨年12月24日、北朝鮮から提出された遺骨、死亡診断書、これらが全部捏造と判明した際に北朝鮮が迅速かつ誠意ある対応をしない場合には日本政府として厳しい対応を取らざるを得ないと発言した。それから半年経過している。北朝鮮は日本側が遺骨の鑑定を捏造していると、言語道断とも言うべき開き直りをしている。今後、政府はどのような態度で臨まれるのか?

 杉浦官房副長官:こちらの調査結果について詳細に説明をするということは先方に伝えてある。その場も持てないような状態を解消して、きちっと説明し、交渉をすると言うことだ。

 −−米本会議で7月11日、北朝鮮による日本人及び韓国人拉致被害者を拘束し続けることを非難し、米政府に対して解決に向け対応を取ることを求めた決議案を362対1という圧倒的多数で可決されている。北朝鮮の核問題の解決は極めて重要だが、そのことで北朝鮮政府との今後のいかなる交渉においても米政府当局者が拉致問題及びその他の重大な人権問題を持ち出せないようなことはあってはならないと。この決議文をどう理解しているのか?

 相沢外務副大臣:我が国の国会、衆参においても拉致に関する特別委員会で同様な趣旨の、あるいは趣旨を含む決議がされている。核問題は非常に重要で解決しなければならないが、その陰にこういった非道な人道上の問題が隠れてしまうことはあってはならないと、そういった趣旨の決議がほぼ全会一致とも言える数で決定されたことは大変重いことだ。これは広い意味での北朝鮮に対する圧力の一つであると評価している。

▲田中慶秋議員(民主党)


 −−日本の対応は弱腰だ。立法府が経済制裁をいつでも行えるように外為法の問題やら特定船舶乗り入れ禁止法の問題についても、送金停止の問題やら経済封鎖という経済制裁も含めて議員立法として明確に発動するようにしているにもかかわらずにである。テロに対する認識が甘いと思う。政府の見解を聞きたい。

 相沢外務副大臣:対話と圧力、適切に圧力を北朝鮮にかけ、誠意ある対応を引き出していかなくてはならない。いつまでも誠実な対応がもたらさない場合には厳しい措置を取るということは既に言明している。どのような手段が、そしてどのようなタイミングが最も事態を好転させるか、問題解決に向けて前進させることができるか、政府が判断しなくてはならない。当然その厳しい対応の中に経済制裁、制裁というものが含まれる。

 −−政府と与党は一体だ。また、与野党を含めて全会一致に近い形で決めた議員立法だ。今のよう政府の弱腰が先般の拉致被害者の皆さん方の国会座り込みとなっている。もっと、しっかり答弁してもらいたい。

 杉浦官房副長官:北朝鮮はああいう国ですから、経済制裁だけが圧力ではないと思っいる。私の知っている限り、総理も外相もあらゆる会合、会談の場で国際社会に拉致問題を提起してきた。昨年のシ−アイランド・サミットでも、今年のグレンイ−グルス・サミットでも総理が提起し、議長総括でもこのように表現されている。グレ−ンイ−グルス・サミットでは「我々は北朝鮮に対し、核兵器関連を廃棄することを求める。北朝鮮は人権並びに拉致問題への国際社会の懸念に対する行動を長期にわたって取ってきていない」と議長総括に明記されている。昨年のAPECの首脳会議でも、また、国連人権委員会でも過去3回にわたって北朝鮮に関する決議が行われ、年々厳しい内容の決議がなされている。国際的な注意を喚起して圧力を加えるというのも一つの圧力だ。

 −−6か国協議で韓国が200万kwの電力供給の問題を考えている。送電も発電も、経済的にその電力を起こすための金がかかる。仮に6か国協議で日本にまた分担金を要求されたらどうするのか?金だけ要求されて、答えも何もしないで、経済封鎖どころか、6か国協議だからといって受けるのか?

 相沢外務副大臣:現在の段階では、韓国政府は本件計画にかかる費用を独自に負担する、韓国が独自に負担をする、そういう立場に立っている。我が国の参加は想定されていない。

 −−仮に要請された場合、そうするのか?

 杉浦官房副長官:仮にあったとすれば、その時点で検討するということになると思う。この重大な提案の前提となっている核の廃棄に向けての北朝鮮側の態度が明確になった時だと思う。その際に、核以外の拉致等の問題について北朝鮮はどういう態度を取るのか、全体がその時点でどの程度明らかになるか、そういう全体状況を踏まえて検討することになる。

 −−仮定の質問であっても、拉致問題解決しない限り、日本はそういう支援要請には応えられないと明確になぜ言えないのか?

 杉浦官房副長官:昨年暮れの拉致幹事会で対応策を協議した際に、あのような北朝鮮の態度を前提として食糧支援の残り半分を止めるという決定をした。6か国協議で実質的に進展があるかどうか、不明な段階で仮定の問題として、答えることを差し控えたい。

▲笠浩史議員(民主党)


 −−韓国であれ、米国の要請であれ、我が国は拉致問題の解決がなければ支援はできないのが政府方針である。このことについて考えを聞きたい。

 杉浦官房副長官:拉致問題の解決なくして、国交正常化はない。核その他の問題、包括的な解決なくして国交正常化はないとういう点ははっきりしている。ただ、人道支援とか、朝鮮半島の非核化、6か国協議の中心的課題、拉致を含めて進展いかんで明らかになってくる。北朝鮮の出方次第だ。人道支援を含む支援を一切やらないかどうかという点については答えを差し控えたい。

 −−何で、答えを差し控えるのか、わからない。進展いかんではなく、解決しなければ支援してはならないんでしょう。拉致問題の解決がなければ経済援助というのはどういう形でもないということを答えてもらいたい。−−何で、答えを差し控えるのか、わからない。進展いかんではなく、解決しなければ支援してはならないんでしょう。拉致問題の解決がなければ経済援助というのはどういう形でもないということを答えてもらいたい。

 杉浦官房副長官:日朝平壌宣言に明記されている経済協力、これは国交回復がなければ当然のことで、拉致問題の解決がなければ平壌宣言にある経済協力はできないのは明確だ。ただ、電力供給に関する韓国の重大な提案との関連では、それが一体日朝平壌宣言の経済協力、全体の中でどういう位置づけになるのかは現時点では仮定の問題で言えない。

 −−日米韓の事前協議が先般行われた際に韓国側の重大提案について日本に協力の要請があったということは一切なかったのか?確認したい。

 相沢外務副大臣:14日に日米韓の協議がソウルで行われたが、韓国から重大な提案についての説明があったが、日本にこのような協力をしてもらいたいとの趣旨の話は一切なかった。◆

 −−政府が(拉致被害者を)認定するには情報不足ということだが、この2年半で認定したのはわずか一人だ。どういうことか?

 杉浦官房副長官:警察は、昨年の秋、全国課長会議を開いて、捜査を一層強力に行うよう指示を出して、取り組んでいる。その結果もあって、田中実さんを拉致被害者に認定することができた。まだ他にも可能性の強い方がいるが、いかんせん情報というか証拠が足りない。田中さんの場合は、証人が何人か出てきたので認定できた。他の方については人証も物証も極めて乏しい。古い事件なので捜査は難航している。北朝鮮とは国交がなく、犯人引渡し条約もないし、捜査共助の条約もない。こちからから出掛けていって捜査するわけにはいかない。向こうの協力が得られない状態で情報不足というか、壁に突き当たっている。そうした中で捜査当局はよく努力していると思う。

 −−政府としては絶対に確信がなければ認定はしないということだが、警察として実際に捜査をしているものがどれくらいの件数があるのか?

 瀬川警備局長:実際に北朝鮮による拉致ではないかということで告訴、告発を受理して いる件数は31件33名。これについては、全国の都道府県警察において捜査を行ってい る。他にも、いわゆる特定失踪者として民間の方から提供を受けた400人以上のリスト がある。そして、全国の都道府県警察に、北朝鮮による拉致ではないかという方もおり、 そうでない方もいいるが、届け出や相談等もある。そういったものについて、いろいろ濃 淡はあるが、捜査、調査を鋭利行っている。今、何件に上がるかという具体的な捜査、調 査の件数については予断を抱かせることにもなりかねないし、また個人のプライバシ−等 にもつながってくるので、答えを差し控えたい。

 −−一つ確認するが、特定失踪者のリスト、400人をすべて捜査しているわけではな いのか?

 瀬川警備局長:事案の内容というものはそれぞれ個別に全部違うので、そういった事案 の内容に応じて所用の調査なり捜査を行っているということで理解してもらいたい。

▲西村真悟議員(民主党)


 −−被害者の存在、行方不明者の存在がある。400名ぐらいの特定失踪者があると民 間組織は調べている。認定に至る状況についていかなる基準となっているのか?

 瀬川警備局長:北朝鮮の国家的意思が推認される形で、本人の意思に反して北朝鮮に連 れて行かれたと判断できるのかどうかということだ。言わば、そういった拉致容疑事案で あると判断すべきかどうかということの基準として申し上げられる最大限の公約数ではな いかと考えている。

 −−拉致問題の解決とは何か。被害者全員が日本に帰って、家族と再会することだ。こ ういうふうに言うならば、一体何人が拉致されているのか、政府が警察初め国と地方の情 報機関を総動員して行う必要があると思うが、拉致問題専門幹事会議長である官房副長官 はどういう認識を持っているのか?

 杉浦官房副長官:警察の方でも容疑が濃厚だという者も何人かいる。それを明確にする ことが国の責務だと考えている。◆