「専門家も交えたDNA鑑定協議を検討」
衆議院拉致問題特別委員会(2005年11月17日)


 衆議院拉致問題特別委員会は11月17日、安倍晋三官房長官、麻生太郎外相、日朝交渉担当者の斎木昭隆外務省アジア太平洋州審議官の3人を呼び、11月上旬に開かれた日朝政府間交渉と今後の政府の拉致問題への対応について質した。

●「北朝鮮は次回は誠意を示せ」


▲小野寺五典議員(自民党)


 −−北朝鮮は時間稼ぎをしているのでは?このまま拉致問題で進展がなければ、経済制裁を念頭に置くべきではないか?安倍官房長官に伺いたい。

 安倍長官:先般、日朝協議が久々に開催された。日本側からは、生存者の帰国、安否不明の拉致被害者の真相究明、そして容疑者の引渡しを求めた。今後、日朝の協議で、拉致問題に進展がなければ我が国として厳しい対応を決断することについては、先方に伝えている。我々は、対話と圧力の姿勢でこの問題を解決していく方針を決めている。その中で、現在、核・ミサイル、安全保障の問題を解決すべき6者協議が開催されている。次の日朝協議も開催されることが決まっている。北朝鮮側は誠意ある回答を示さなければならない。時間稼ぎを許すことはあってはならない。誠意ある対応を示さないのであれば、しっかりとした厳しい対応をとっていくことになる。

 −−70%の衆議院議員が経済措置の発動に賛成している。麻生外相も、経済制裁を発動することに賛成している。この考えに変わりがないのか?

 麻生外相:重要なことはどのようなタイミングで、どのようなやり方でやれば、圧力が効果的に結果が得られるかということだ。この問題については、少なくともいろいろな形で、これまでも船の規制に始まり、少しづつ圧力が上がってきていることは十分に認識してもらっているところだ。ただ、初めに経済制裁ありきと言っているわけではない。今、どの段階で何をやるかということを、この段階で、この場で申し上げるわけにはいかない。

 −−家族会では、拉致問題が置き去りにされ、国交正常が先行してしまうのではと不安を抱いている。拉致問題の解決なくして国交正常化はないということを改めて確認したい。

 麻生外相:日朝関係は丸々一年間も止まっていたので、日本としては、これを発展させる方法として、幾つかの問題を協議しないと、向こうからは過去の清算の話やら何やら言ってきているので、日本としても、それに対して答えないといけない、しかし、傍ら、拉致の話も片づけてもらいますよ、ミサイルの話もしようと言っている。一つひっかかると全部が止まってしまうことではなくて、少なくともいろいろな話を同時並行的にやっていかなければならない。拉致とミサイルの話、核の話が解決しない限りは、国交が正常化することはない。

▲福井照議員(自民党)


 −−11月3日、4日の日朝協議での拉致に関する実質的な成果を聞きたい。北朝鮮からは新たな情報提供が全くなかった。非常に遺憾だ。北朝鮮は、事前に非公式ル−トを通じてゼロ回答ではないということを日本政府関係者に伝えてきたという一部の報道があった。その真偽を知りたい。

 斎木審議官:非公式のル−トを通じて何か向こうから案があるという話は全くない。事前にそういう話もなかった。また、先方との協議の席上、そのような提案も含めて一切なかった。

 −−拉致一本で来た戦術を三分野並行協議というふうに戦略、戦術を変えたようだが、この戦術転換で拉致が置き去りにされる心配は?拉致だけが解決しないまま二つのテ−マが先行することは本当にないのか?

 斎木審議官:拉致問題を最優先案件として先方との間で交渉し、解決を見いだしていく方針だ。他方、核とミサイル、これも日本に対する大きな脅威として存在するので、これについても、日朝平壌宣言で安全保障に関する協議を行うことが明記されているので、それについての交渉、協議もやらなければならない。また、先方は、過去の清算も取り上げて、解決を模索したいとの立場なので、この三つを我々としてはきっちり並行して協議し、解決を求めていく。日本としては拉致の解決がない状況の中で正常化交渉が出口を迎えることは絶対にないという方針で今後も協議していく方針だ。

▲渡部篤議員(自民党)


 −−北朝鮮は拉致問題は解決済みであると言っている。今後、どう交渉していくのか?

 麻生外相:他国の国民を拉致するというのは明らかに犯罪である。しかも、その犯罪を国家元首が国家犯罪として認めたという例も過去にない。この問題が極めて重大な問題であると認識している。この問題については、対話と圧力という基本的な考え方のもとで、諸懸案を解決していくということで、日朝交渉をやっている。また、核問題についても、他の関係国と緊密に連携しながら、北朝鮮の核廃棄に向けた具体的な進展に積極的に努力していかなければならない。断っておくが、交渉という話と正常化というのは、正常化のための交渉であって、それは直ちに正常化を意味することではない。

 −−拉致問題は解決済みとの立場をとり続ける北朝鮮が、拉致問題に関する協議会の設置を受け入れる可能性はあるのか?

 麻生外相:先般の協議の中で、北朝鮮側が、日本側が拉致問題というものを懸案事項として提起するということについては、向こう側も、解決済みとは言っても日本側としてはこの問題は解決済みではないのだか、この問題については引き続き提起することに関しては向こうも理解を示しているところである。お互い優先順位が違うが、三つ一緒にならないと解決、妥結、正常化ということにはならない。

●「すべての生存者の帰国が条件」


 −−拉致問題の解決とはどのようなことを言うのか官房長官と、麻生外相の考えを聞きたい。

 安倍長官:拉致問題の解決とは、すべての生存者の日本への帰国だ。すべての生存者が日本への帰国がない限り、拉致問題は解決しない。日本と北朝鮮との間の問題解決にはならない。

 麻生外相:北朝鮮が誠意ある対応を行って、真実が明らかになり、すべての生存者が帰国ということにならない限り、拉致問題が解決することにはならない。

 −−核問題を協議する6か国協議と、拉致問題と扱う二国間協議は、同時並行的に行われていくことになるが、拉致問題が解決されてないのに、仮に、核問題が決着し、日本に経済協力を求められた場合、北朝鮮に対して経済援助してはならないと思うが、どうするのか?

 麻生外相:仮に核問題、ミサイル問題が解決されたとしても、その時点で拉致問題が解決されない場合、日本として国交正常化はできない。北朝鮮に対して本格的な経済協力をすることはない。

▲池坊保子議員(公明党)


 −−経済的圧力について安倍官房長官に聞きたい。安倍長官は日朝政府間対話前に、北朝鮮に拉致問題で誠意ある対応がなければ、いろいろなことを考えていると言ったが、全く違った切り口での新しい経済制裁、即ち特定船舶入港禁止法、あるいは改正外為法を発動することを意味しているのか?

 安倍長官:それら以外にもいわゆる法令の中において、その法令の的確な運用において結果として圧力がかかっていくということもある。一々それは何かということを申し上げるのは差し控えたい。北朝鮮が誠意ある対応を取れば我々はこういう手段について考える必要はなくなる。

▲松木謙公議員(民主党)


 −−日朝交渉と6者会合で拉致問題に進展があったのかどうか、イエスかノ−で答えてもらいたい。

 斎木審議官:日朝政府間協議は2日間にわたって12時間ぐらいやり合った。拉致問題についての先方に対する説明要求、これに対する回答は残念ながら我々が満足する形ではなかった。

 −−公開の交渉で要するにほとんど進展もなかったということだ。では、次は何を目指すのか?

 斎木審議官:我々としてはいろいろ知恵を絞りながら、先方を対話の場に引き止めながら、どういう形でこの拉致問題の早期解決を迫っていくかを考えている。三つの並行協議もその一つだが、先方がこれに乗ってくるかどうかまだわからないが、先方にとっても話をしたいと思っている場を設けることによって、我々としては、この拉致問題の交渉をさらに前に進めて解決を模索したいと考えている。

 −−貴方は、マスコミ等に対話ができたのは有意義であったという話をしているようだが、対話をしているだけではどうしようもない。交渉に当たっていて、拉致被害者の方々が、元気なのか、あるいはそうではないのか、どういう感じを持ったのか?

 斎木審議官:拉致被害者の方々、11件16人ということだが、まだ5人しか戻っていない。残りの方々について先方の説明内容では全く納得がいかない。従って、納得がいかない以上、生きているとの前提で交渉をしている。

 −−安倍長官に聞きたい。官房長官は2005年2月5日に、もちろん官房長官になる前に宮崎県での講演の中で、経済制裁について今月中にも発動すべきだと、また、2005年7月19日には北朝鮮への圧力は経済制裁しかないと発言している。そういう時期が来ているのでは?2月5日に「今月中に発動すべきである」とのことならば、もう11月だ。やってもいいのでは?

 安倍長官:誠意のない対応であれば、経済制裁の実行をと、そう発言してきた。そうした圧力の中にあって、北朝鮮側は日朝交渉の再開に応じてきたと、思っている。日朝協議では、拉致問題で進展がなければ、政府として厳しい対応を決断することになると、伝えた。今後、何とかこの問題を早期に解決しなければならない。時間稼ぎは許してはならない。厳しい対応を取る場合は、ベストなタイミングを考えなければいけない。要は結果を出すことが大切である。

●「経済制裁について今は言えない」


 −−ちょっと慎重になってしまったのでは。やはりより重責のある仕事についたわけだから、それは仕方がないと思う。但し、今度の交渉で動かない、こういうことがわかったときに、経済制裁を決めてしまったらどうか?

 安倍長官:北朝鮮側も我々がそういう強い意志で臨んでいることはだんだん理解をしてきている。次の日朝協議において誠意ある対応を当然、彼らは行わなければならない。今の段階で、こうなればこうするということをむしろこの場で申し上げるのは適切ではないだろう。ある程度の選択肢の中で、また北朝鮮側も考えるという中において最良の結果が出ることを臨みたい。

▲松原仁議員(民主党)


 −−国家主権が侵されたことに対して国家意思の発動をするということは、極めて重要だろうと思う。従って、日本として、主権の発動としてどのタイミングで経済制裁を発動するのか?

 安倍長官:北朝鮮側に対する圧力の手段ということについてはいろいろ手段がある。いつ、どこでやるかについては、その時々のタイミングを適切に判断してやらなければいない。それは、あくまで北朝鮮の対応による、こう思う。次回の日朝の会合においてしっかりと北朝鮮が誠意を持って対応することを強く望みたい。

▲西村智奈美議員(民主党)


 −−(日本側の提案について)北朝鮮側は一旦持ち帰って検討するとのことだが、今後の協議の見通しについて聞きたい。

 斎木審議官:先般の日朝の実務社の協議の場においては、今後どういうことで日朝関係の進展を図るかというやりとりの中で、私どもの方から、三つの場を設けてそれを同時並行で進めていく、拉致問題は、日本にとって最重要の案件である、つまり懸案事項の協議というのは拉致を中心とするものであるから、これの進展、決着、これが一番優先する、これの決着がない限りは過去の清算を中心として議論する正常化交渉の出口も決着もないということを、改めて強く先方に説明した。そういうボ−ルを向こうに投げて(日本に)戻ってきた。まだ、ボ−ルは向こうにある。我々としては、早期に向こうの回答が来ることを期待しておりまたこちらから回答の督促を行う考えだ。

 −−政府認定に係わる拉致被害者の方々以外にも拉致されたという疑いが極めて濃厚な失踪事案が、34件34人いる。拉致問題の中に特定失踪者の問題も含まれているとの認識なのか,そこを聞きたい。

 斎木審議官:政府が認定している拉致事案は11件16人だ。それ以外にも拉致をされた疑いが濃厚な方々もいるだろうと私どもとしては推測している。そういう前提で日朝協議の場で、具体的な名前を挙げながら先方に対してこういう方々を捜して、日本に戻すように申し入れている。拉致認定者とそうでない方々、ここは一義的には捜査当局、警察当局の方で様々な証拠などを集めているのでしっかりと認定することが前提となる。外交当局としては、認定が追加された人については、当然、先方に早期帰国を実現するよう申し入れる。そういう人達がまだそちらにいるのであれば早急にこちらに帰すべきであると申し入れている。

 −−拉致問題の中に、拉致された疑いが濃厚な失踪事案、この方々34人も含まれるという認識で理解していいんですね?

 麻生外相:田中実という人については証拠として確固たるものがあったので新たな拉致被害者として認定した。残り30数名については、まだ証拠が確たるものが出来上がっていない。従って、拉致被害者として確たる認定をしている段階ではない。

●「DAN鑑定問題で意見交換した」


▲赤嶺政賢議員(共産党)


 −−今回の日朝協議では日本側の横田めぐみさんのものとされた遺骨の鑑定結果を説明したようだが、これに対して北朝鮮側もいろいろと疑問を提起してきたのか?

 斎木審議官:我々としては、疑問点、不審点というものを当然ぶつけた。この一年の間に先方もいろいろな情報収集をおそらくしたのだと思う。日本のDNA鑑定の水準というかやり方というか、研究、分析もしてきている。従って、遺骨のDNA鑑定の件についても、我々の方からもいろいろと問題提起をしたが、先方からも日本の鑑定結果に対する先方なりのさまざまな意見の開陳があった。残念ながら、時間が十分に、それ以上の突っ込んだやりとりを、この問題だけでやるわけにはいかなかったので、機会を次回見つけてより詳細にやりとりをしようということで終えた。

 −−DNA鑑定の問題で双方の意見の違いがあるようだが、DNA鑑定の専門家を協議の場に参加させたらどうか。そういう提案をしたのか?

 斎木審議官:私も十分に勉強した上で聞いたつもりだし、先方も1年間さまざまな勉強をして、向こうの疑問点についていろいろ言っていた。我々は専門家ではないということをお互いに認識しつつ、もう少し突っ込んだお互いのやりとりというものを、場合によっては、専門家も交えてやる、その意味についてはお互いに認め合いつつ、検討を重ねていこうということになった。◆