「経済制裁はタイミングが問題」
衆議院拉致問題特別委員会(2005年10月6日)
衆議院拉致問題特別委員会は第4回6か国協議の終了を受けて、2005年10月6日政府関係者らを呼び、政府の拉致問題への対応を問いただした。
外務省からは町村信孝外相、逢沢一郎副大臣、佐々江賢一郎アジア太平洋州局長、遠藤善久大臣官房審議官の4人が、内閣官房からは杉浦正健副長官と江村興治拉致問題連絡・調整室長が、そして山内千里防衛庁防衛局次長と枡田一彦海上保安庁交通部長が答弁に立った。(肩書は当時)
●「万景峰号の入港回数は増加」
−−外為法による経済制裁といういのは必ずしも特殊なことではない。戦後の日本は何度もやってきた。外為法に基づいての、例えば送金を止めるとか、貿易に制限を加えるとかというのは過去にどういう国々に発動してきたのか?
遠藤外務省大臣官房審議官:外為法に基づいて経済制裁措置を発動した国等は、イラク、クウェ−ト、リビア、アンゴラ、ユ−ゴ連邦共和国、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、ハイチ、シエラレオネ、南ロ−デシア、南アフリカ、ナミビア、イランである。
−−多くは国連決議などに基づいて発動しているがアンゴラとかナミビアとかシエラレオネという国々に対しても発動した例がある。では、核を開発し、ミサイルを飛ばし、かつ拉致問題を起こし、その解決に誠意を示さない北朝鮮に対しては躊躇する必要があるのか?国土交通省に聞くが、万景峰号や北朝鮮籍船が2003年、2004年にそれぞれ何回日本の港に入港したのか?
枡田海上保安庁交通部長:2003年には万景峰号が10回、同号を含む北朝鮮船舶の入港実績は992隻。2004年は万景峰号が16回、同号を含む北朝鮮籍船舶の入港実績は1、043隻となっている。
−−北朝鮮経済制裁問題が国内で論議していても、今の例が典型だと思うのだが、船舶の入港数というもの自体は増えている。最近、制裁どころか支援すべきという声まである。軽水炉支援の話だ。日本政府としては拉致問題が解決するまでは、軽水炉の支援もしくは他のエネルギ−支援を実施しない、そう理解していいか?
町村外相:対北朝鮮エネルギ−支援だが、現時点では具体的に何も決まっていないことがあのペ−パ−から読み取れる。今後の交渉において、北朝鮮が今般のこの約束というものをいかに実施するのかということを踏まえた上で、関係国間で論議、検討していくということに相なるわけだ。
−−日本が経済制裁の論議をしていても、中国が北朝鮮にいろいろ支援を行っている。中国から北朝鮮への経済支援の実態は?
逢沢外務副大臣:個別の援助については具体的に公表しているものもある。2004年の例で言うと、竜川爆破事故の時に総額で1千万元の無償援助を表明した。その前の2003年7月にはディ−ゼル油を1万トン無償援助を表明している。但し、全体像については明確になっていない。
−−日本が圧力をかけていくとしても、中国が一方で支援をしているのでは、露骨な抜け道になってしまう。北朝鮮に対して支援をしないでくれと中国側に働きかけることは?あるいは抗議したり、問題視したことはないのか?
逢沢外務副大臣:個別具体的に中国政府に対してやめて欲しいといったようなことを申し入れてきた経緯は今までのところない。それぞれの主権国家がそれぞれの立場において外交その他の活動を行っている。それはそれぞれ尊重されるということが大原則だ。
▲鍵田忠兵衛(自民党)
−−北朝鮮がNPT(核不拡散条約)復帰とIAEA(国際原子力機構)の査察を受け入れることが大前提となっているが、北朝鮮がこの前提をクリアした場合に日本としては、KEDO(朝鮮半島エネルギ−開発機構)の再開でいくのか、それとも新たな枠組みでやるのか?
佐々江外務省局長:共同声明では適当な時期に軽水炉の提供問題についての議論を行うことで合意した。この適当な時期というのは、NPTとIAEAの保障措置への復帰といったことが前提となる。その際に、我々の立場というのは、初めて議論できるということだ。そもそも、これは提供するということを約束すらしていない。そういう状況になった時に果して提供することがいいのかどうかといったことも、そこから論議がスタ−トしなければいけない問題である。
−−6か国協議で共同声明が採択され、その中で平和共存を約束し、エネルギ−、貿易、投資分野での経済協力を二国間、または多国間で推進することになっている。この状況下での経済制裁は確かに難しい。但し、拉致問題が進展しない場合は、経済制裁のカ−ドしかないのでは?
杉浦官房副長官:先日、家族会の方々とお話する機会があった。経済制裁は可能な一つの手段であるけど、まず経済制裁ありきではない、経済制裁が目的ではないということを家族会の方々に申し上げた。大事なことは、どのようなタイミングで、またどのような方法で圧力をかけるか、かけることが拉致問題の解決に資するかどうか、最大の効果を上げるかどうかということだ。政府内において、様々な可能性を念頭に置きながら進めているところだ。これから再開される政府間対話や6か国協議の状況を見ながら、引き続き検討していく考えだ。
●「遺骨の鑑定は議論の余地がない」
▲薗浦健太郎(自民党)
−−常識が通じない相手ということはわかるが、特に遺骨の問題では、日本の国民感情を逆撫でするような対応を北朝鮮側がやっている。日朝二国間協議でも遺骨問題が最大の課題となっていると考えるが、この協議に臨むスタンスを聞きたい。
町村外相:生存者がいれば、当然早期に帰国させること、また真相解明をするということが必要である。また、拉致をした、犯罪を犯した人の処罰という三点に尽きる。当然、その過程で遺骨の問題も取り上げられるだろう。私どもは、世界最高の水準の知見をもって行ったこの遺骨が横田めぐみさんのものではないということを明らかにした。この点についてはもう全く疑う余地もない。これについて北朝鮮がいろいろな発言をしていること
は承知しているが、その点についてはもう全く議論の余地がない問題だ。
−−北朝鮮に対する経済制裁を行った場合、諸外国、特に米中韓ロ等々の協力それから支援は得られるのか?
佐々江外務省局長:現時点では、北朝鮮との経済関係をみると、日朝間では非常に減少している。そうした中で中国と韓国との貿易が増えている。そういう意味で、経済の実態から言えば、これら国々との関係、これらの国々が北朝鮮とどういう関係にあるかということも考えながらやっていく必要がある。
−−日朝間の貿易の現況は?また、今後の貿易量の見通しは?
佐々江外務省局長:2004年の数字では、日朝貿易については輸出入合わせて2億6千万ドル、約273億円。これは前年に比べると、約11%、11.5%の減である。最近貿易が減ってきている。これにはいろいろな理由がある。北朝鮮側が日本との貿易に慎重であるし、日本側にも理由がある。見通しについては困難だ。私としては、今のような情勢が続く限りは、北朝鮮との貿易が大きく増えることは当面見込んでいない。
−−経済制裁をした場合、実効果はどのぐらい見込まれるのか?試算は難しいかもしれないが、その辺があれば、教えていただきたい。
佐々江外務省局長:いろいろな試算があり得ると思うし、いろいろな与件もあるので、なかなか一概には言えない。単純に言えば、日朝貿易は総額で2億6千万ドルだが、我が国の輸出が1億ドル弱だ。輸出入すべての貿易を止めるような例えば前提になれば、これに相当する規模のやりとりがなくなる。それは波及効果として当然雇用とか経済に影響を及ぼす。それがさらに縮小効果をもたらすということで、大きな影響は理論的に当然ある。しかし、現時点で日本だけでこういうことをやって実際上、それの及ぼす効果について、他の国々の代替効果もあるし、一概にそれだけがすべて打撃を受けるかどうかということについては議論のあるところだ。
▲池坊保子(公明党)
−−町村外相は4日の参議院予算委員会で日朝対話と6か国協議の共同声明の持ち込まれた軽水炉建設と拉致問題に対して、同時並行して進んでいくのではないかと言っていた。ところが、先の水野議員の質問には、拉致問題が解決してから、軽水炉問題も含めた国交正常化があると言っていた。どっちなのか?
町村外相:北朝鮮の核計画の破棄等が実現する前の段階で北朝鮮への軽水炉提供が日本が対応すべき具体的な課題になるということは考えられない。核問題が極めて急速に進展するような場合の軽水炉提供問題への我が国の対応については、拉致問題も含めた日朝関係全体で、その時点の状況を考慮して判断をするということだ。いずれにしても、拉致問題は日朝間で急速に話し合いをしなければならない緊急のテ−マであることには変わりない。結果として、どっちが早いか遅いかということは、今あらかじめ申し上げることは難しい。ある意味では、核の問題も拉致の問題も同時並行して進んでいく状況に今ある。
▲松原仁(民主党)
−−拉致問題に関する専門幹事会で昨年の横田めぐみさんのにせ遺骨問題の時にどういう議論がされたのか、どういう方向性が打ち出されたのか?
杉浦官房副長官:拉致問題専門幹事会は昨年12月28日、開催した。17回目の会合だ。そこでは、各省庁から取り組みの状況を聴取した後、今後の対応方針として、北朝鮮側が、日朝平壌宣言にのっとり、安否不明の拉致被害者に関する真相究明を一刻も早く行うとともに、生存者は直ちに帰国させることが基本でありこれを強く要求した。これが第一点だ。二点目は北朝鮮側の迅速かつ納得のいく対応を引き続き求めることとし、その対応いかんによっては厳しい対応を取らざるを得ないということ。三点目は、北朝鮮に対する人道支援は当面行わないこと。残っておった半分を凍結した。四点目は、船舶検査等、現行制度のもとでの厳格な法執行を引き続き実施していくこと。五点目は、拉致問題に関する責任者の特定及び処罰に関して、より明確な説明を求めること。また、拉致に関し国際手配している三名について、そのほかのよど号犯人グル−プとともに、北朝鮮に対し、引き続き身柄の引渡をしを要求していくこと。六点目は、拉致問題に関する情報収集について引き続き努めること。政府はこの方針に基づいて、今年4月には拉致問題連絡・調整室の設置をして、内閣官房の調整機能を強化した。
−−去年12月からこの拉致問題に関する専門会議は何回行われたのか?
杉浦官房副長官:拉致幹事会は開いていない。但し4月に情報収集の結果、田中実さんを認定した。認定のための会議はやっていた。
−−拉致問題に関する専門会議はなぜやらなかったのか?
杉浦官房副長官:日朝間の拉致問題をめぐる基本的状況に変化がなかったからだ。
−−官房副長官、あなたは幹事会の議長ですよね。職務怠慢ではないか?
杉浦官房副長官:ただ、外務省を初め、例えば6か国協議は水面下でやるように努力は続けられていた。拉致問題についてもそれぞれ警察は警察で、外務省は外務省で、公安庁は公安庁でいろいろと努力はしていた。
●「小泉3度目の訪朝は有り得る」
−−特定失踪者問題調査会という民間がつくった団体がある。結構いろいろな活動をしている。今回、短波ラジオを始めることにしている。警察の方から、民間が調査組織をつくるなんて余計なことは余りしないほうがいいよと言われるようなこともあるようだが、国として関与してもらえればありがたい。
江村興治拉致問題連絡・調整室長:同調査会への私どもの関与については、同調査会は民間の任意団体なので、その自主性を尊重している。政府として、この調査会にどういう形で関与するのか、例えば資金的な援助ができないのかという趣旨のようだが、そのことについてはやはり慎重な検討が必要であると考えている。
−−ラジオ放送には一日30分で年間300万円ぐらいかかるらしい。特定失踪者の方々に聞いても、やはり何か援助があったら助かるという話はある。
江村興治拉致問題連絡・調整室長:自主的な活動ですので、政府がどのような形でかかわるということについてはいろいろと問題もある。例えば、協力についての申し入れ等があれば、関係のところに繋ぎ、可能なことについては検討していきたい。
−−北朝鮮はトップダウンの国である。金正日(総書記)が動かなければ物は動かないでしょう。日本の総理大臣が北朝鮮に行くのか、第三国で会うのか、あるいは日本に呼び込むのか、そこら辺を考えないと、次の動きは出てこない。どう考えているのか?
町村外相:確かにそれまで全く存在する否定していた拉致問題を、小泉総理訪朝の時に初めて認めたことがあるので、はやりトップ会談の効果というのは、ああした国において大変大きな成果を上げる可能性がある。しかるべきタイミング、しかるべき条件が整い、三度目の訪朝があるかないかと言われれば、私はそれを可能性として今から排除するものではない。ただ、今すぐ、それができる状況かといえば、それは多分違うと思う。しかし、その先そういう可能性があるかないかと問われれば、私は、可能性がないという積極的な理由はないので、当然あるとむしろ申し上げたい。
▲西村真悟(民主党)
−−日本政府は、北朝鮮が死亡したと宣言した八名は生きているという前提でいるのか、北朝鮮の言うとおり死んだという前提でいるのか、どちらか?
町村外相:北朝鮮側から提供された情報あるいは物証は、八名死亡、二名未入境という北朝鮮側の再調査を裏付けるものではない。従って、政府としては、被害者は生存しているという前提で取り組んできたし、これからも取り組む。
▲赤嶺政賢(共産党)
−−日朝政府間交渉を始めることになったが、今までの拉致問題をテ−マにした実務者協議とは違うのか?それとも同じ性格か?
佐々江外務省局長:日朝間の協議をどう進めるのかということについては北朝鮮と調整中である。我々としては、6か国協議で言及されたことの実施を図るための協議であると思っている。その中心的な課題が拉致問題であることは明らかだ。従って、実質的には昨年8月から三度にわたって行われた実務者協議とほぼ同じような内容を取り上げることを想定している。この点については、北朝鮮との話し合いの中で具体的にどういう問題を取り上げていくか話し合っていくことになる。◆