「経済制裁は効いている」
衆議院拉致問題特別委員会(2006年12月7日)
北京で行われた6か国協議で拉致問題を提起するなど、日本政府は他の参加国に日本の立場を訴え、それら国々の協力を得て、拉致問題の解決を図ろうとしているが、一向に進展が見られない。安倍内閣は拉致問題をどう解決しようとしているのか?6か国協議開催前の2006年12月7日に開かれた拉致問題に関する衆議院拉致問題特別委員会での審議を掲載する。政府答弁者は、塩崎恭久官房長官、岩屋毅外務副大臣、溝手顕正公安委員長。
●「可能性だけでは拉致認定できない」
△高木毅議員(自民党)
――拉致担当大臣としての官房長官の決意、心構え、あるいは現状認識を聞きたい。
塩崎長官:拉致という問題は、国家の主権を侵す重大な問題だと思う。偽札問題が国家主権絡みでよく言われるが、拉致問題はまさに人そのものを拉致してしまう、それも日本の国内でやる、そういう信じがたいことである。国民の生命と安全にかかわる重大な問題だと思っている。拉致問題の解決なくして、国交正常化なしということだと思っている。北朝鮮はこの間、不誠実な対応を続け、そしてまた、ミサイル発射、さらに核実験、こういうことで、世界の流れからまさに逆行しているようなことをやり続けているわけであって、北朝鮮の対応が今のところ変化の兆しがうかがわれないということは我々としては大変残念なことだ。対話と圧力という基本的なスタンスの中で、北朝鮮に対して、引き続き、拉致被害者の全員の無事帰国、そしてすべての拉致被害者の安全を確保して直ちに帰ってもらうために、我々は強くこれからも求めていきたい。
――日朝間、二国間協議は厳しい状況にある。そうなると、6者協議が重要視される。外務省の6者協議における拉致問題の取り組み、あるいは副大臣としての決意を聞きたい。
岩屋副大臣:6か国協議の場で具体的な成果が上がらなければいけないと考えている。その方針で、今、鋭意関係各国と連携をとっているところである。我々は、当然、拉致被害者が全員生存しているという前提に立って、全ての拉致被害者の安全確保と即時帰国、真相究明、拉致実行犯の引き渡しを強く求めていく決意だ。6者会合というのはただ開けばいいということではなく、具体的な成果が上がらなければ意味がない。
――特定失踪者については4年で2人しか認定できていない。2005年4月の田中実さん、そして先日の松本京子さん。なぜ、進まないのか?
溝手公安委員長:北朝鮮による拉致容疑事案については、警察は、これまでのところ12件17名と判断しているところだ。このほかにも、北朝鮮による拉致事件ではないかと告訴や告発された事件が37件、拉致の可能性が排除できないと届け出や相談を9百件以上受理していると承知している。警察は、こういう事案に対しても、ご家族や関係者の心情に配慮しながらあらゆる予断を排除して、所要の捜査、調査を行っている。事案の多くは、関連情報や証拠がほとんど残されておらず、その解明に長時間を要しているものもあって、歯がゆい思いを持つのは理解できるが、事案の重大性に鑑み、警察の総力を挙げて、所要の調査、捜査を今後も粘り強く進めていくよう警察当局を督励していきたいと考えている。
――家族の方々の年も考えて、少し要件というものを緩めるなりして、認定というものの作業を進めるべきではないか?
塩崎長官:認定という言葉になると、やはりこれは、関係省庁、機関による捜査、調査の結果をもとにして、北朝鮮当局によって実行された拉致行為の有無を判断基準として行うことにしている。そのような判断に至らないものを、たとえ拉致された可能性が高い事案であったとしても、認定自体は容易にはなかなかできないのではないかと思う。そもそも、何をもって拉致された可能性が高いのかの判断基準を作成することは、それぞれいろいろなケースがあって、あいまいな基準のもとで万一間違った場合の結果を考えてみると、現在の認定制度自体の信頼性を損なってしまうのではないかということを我々としては考えるわけであって、そうなると、拉致問題の解決自体にも影響を及ぼす可能性が懸念されるわけだ。従って、拉致の認定基準の見直しについては、やはり相当慎重に考えざるを得ないと考えている。この間の松本京子さんのケースについても、実は捜査に関して、やはり相当時間をかけて、緻密なそして粘り強い捜査をやった結果、ああいう判断に至ったわけで、それを可能性が高いということだけで認定するということころまでいくには少し危険性もあるのかなと思う。
――間違えて認定するのも非常に責任は重いかもしれないが、本当に拉致事案なのに、認定をしない責任の方がさらに重いと思うが,どうか?
塩崎長官:国家として、政府として、これは北朝鮮による拉致だということを準認定したとしても、それでもしも間違ったらその結果はどういうことになるのかというのは容易に想像ができる。我々としては、間違いない認定、判断、そしてそれによっての政府としての強い姿勢というものを示しながら無事の奪還というものを図っていくということが大事だと思う
●「成果が上がるまで制裁を続ける」
△渡辺 周議員(民主党)
――7月のミサイル発射、10月の核実験を受けて、我が国としてさまざまな制裁措置をとってきた。制裁措置の効果について、どのような効果があらわれているのかについて聞きたい。
塩崎長官:端的に出ているのは、今回、6者協議が始まるように方向性としてはなってきている。具体的な成果が出なければいけないということで中身をきっちり今詰めているが、まずこういうところに、大きな意味で日本の制裁プラス国際的な強い包囲網で圧力をかけていくことについて、北朝鮮がどう思っているかということが感じ取れるのでは。一方で、今回の6者協議には日本は来なくていいと、北朝鮮は言っているわけだが、それは、やはり日本が毅然たる態度で一貫して臨んでいるからこそ、そういうことを言っているわけであって、そういったところに効果は十分出てきていると思っている。また、これから具体的な成果を得ていくということが大事であって、成果が出ない限り引き続き制裁を続けていかなければならない、このように考えている。
岩屋副大臣:例えば、北朝鮮からの輸入を止めている。150億円規模で、いかにも小さいように見えるけど、北朝鮮の経済というのは我が国の百分の一、あるいはもっと小さい経済でしょう。そういうことからすれば、この輸入禁止というのもじわじわ効いてくると思っている。輸出は禁止していないが、事実上、船も出入りしてはいけない、人も出入りしてはいけないということであれば、そこにも影響が及んでくると思う。日本だけでなく、国際社会の国連決議1718条に基づく制裁ということは、北朝鮮にじわりじわりダメージを与えていくに違いないと思っている。北朝鮮はこの冬も食糧事情等など厳しいと聞いている。そういう中で6か国協議にでも出てこざるを得ない。そこで、何らかの具体的な成果をやはり我々としてはきちっと上げていくということを目標に努力をしていきたいと思っている。
――今、北朝鮮と国交を持っている西側の国々、大使館を持っている国々、その中には情報機関の人間、特殊な任務を負っている方もいると思うが、情報を共有して、何かの時には(拉致被害者の)救出に行って欲しいと今から準備しておくべきだと思う。
岩屋副大臣:北朝鮮と国交を有する国々というのは154か国ある。欧州では英、独、イタリアをはじめ47か国が国交を持っている。アジアでは、中国、インド、インドネシアを初め18か国と持っている。当然、外務省としては意見交換をしている。
△笠井 亮議員(共産党)
――6か国協議再開が核、ミサイル問題とともに拉致問題の解決にどんな意義があると考えているのか?
塩崎長官:再開されたときには、我々としては、この拉致の問題というものを正面から取り上げるつもりである。他の6者の仲間の国々もそれについては賛同をしてくれているところである。
――麻生外相は、6者会合と日朝協議は車の車輪のようなもので、相互に補完し合う形でいくことが重要であると繰り返していた。日朝包括協議の再開の位置づけと見通しについてどのように考えているのか?
岩屋副大臣:2月の日朝協議においては、拉致の問題を含めて、いずれの問題も進展が見られなかったことを大変残念に思っている。また、4月には、北東アジア協力対話、これは、民間レベルだったが、日朝接触があったものの、ここでも進展がなかった。正直、次回協議開催の見通しは今のところ立っていない。ただ、対話と圧力という基本方針で、私どもは何も対話の道を閉ざしているわけではない。圧力をかけながら北朝鮮と対話をし、拉致の問題を解決していくというのが基本方針なので、粘り強く取り組んでいく。
――現時点での日朝平壌宣言と6者会合の共同声明とこの有効性について聞きたい。
塩崎長官:核実験、ミサイル発射によって北朝鮮が違反しているのは間違いない。ではそれで無効になったかというと、それはやはり違うと思う。総理が言うように、約束は約束であるので、北朝鮮がその原点に立ち返って、それぞれやるべきことをやっていかなければならないということなので、当然、日朝平壌宣言に従って、北朝鮮が核やミサイル、拉致問題を正面から取り組んで解決をしていく中にあって、初めてさまざまな諸問題が解決していくのではないかと思う。
△鷲尾英一郎議員(民主党)
――6者協議の議長国の中国との連携が当然重要だと思うが、どうか?
岩屋副大臣:中国は議長国として6者会合の再開に向けて積極的に努力している。このことについては日本としても評価している。何も私どもが置いてきぼりになっているわけではない。実は、緊密に連携、連絡を取っている。
――6者会合を通じた北朝鮮問題の解決という意味において、韓国ももっと共同歩調を取るべきではないか?
岩屋副大臣:韓国も、北朝鮮の核実験については非常に厳しい態度で臨んでいる。金剛山観光や開城の工業団地開発事業を慎重に検討してもらいたいと申し上げたが、最終的には韓国が自主的に決める事柄である。