「拉致問題解決まで万景峰号の入港禁止」
衆議院拉致問題特別委員会(2006年7月10日)
衆議院の北朝鮮による拉致問題等に関する特別委員会は2006年7月10日、テポドン・ミサイル発射と横田めぐみさんの夫、金英男さんの「記者会見」に対する日本政府の対応について審議した。政府からは安倍晋三官房長官、塩崎恭久外務副大臣、佐々江賢一外務省アジア太平洋州局長、青山幸恭財務省大臣官房審議官、枡田一彦会場保安庁交通部長が答弁に立った。(肩書は当時)
●「769隻のうち14隻が対象」
△水野賢一議員(自民党)
−−北朝鮮によるミサイル発射は、北朝鮮という国がいかに国際社会の平和と安全に対する脅威であるかを改めて証明した。経済制裁の発動も当然だ。万景峰号の入港を禁止したことを評価する。外為法による経済制裁の発動についても考えているのか?
安倍官房長官:ミサイル問題を始めとする今後の北朝鮮の対応ぶりを総合的に勘案して必要に応じてさらなる措置について判断していきたい。
−−官報(内閣告示第3号)をみると、ミサイル発射が万景峰号の入港禁止の理由とされているが、拉致問題は触れられてない。
佐々江局長:拉致問題という言葉はこの中に入っていないが、最後の方に「今回の事案を始めとする我が国を取り巻く国際情勢にかんがみ、我が国の平和及び安全を維持するため特に必要があると認め、本邦の港への入港を禁止することとする」と言ったように書いてある。当然ながら、この中には拉致問題が判断材料の一つとして含まれているというふうに考えている。
−−拉致問題も今回の万景峰号入港禁止の制裁理由に含まれると考えてもいいのか?官房長官の考えを聞きたい。
安倍官房長官:この制裁を決定するにあたっては拉致問題において誠意ある対応を(北朝鮮が)とってこなかった、そのことも当然総合的に勘案した中において制裁を決定したことだ。
−−万景峰号の入港禁止は半年間だ。半年後にこれを延長するかどうか、判断しなければならない。ミサイル問題だけが入港禁止の理由ならば、この間に北朝鮮はミサイルの発射を中止するが、拉致問題では誠意ある対応を示さないことも十分にありえる。拉致問題で誠意を示さなければ、安易に制裁を解除すべきではないと思うが?
安倍官房長官:6か月後についてだが、その際は、ミサイル問題、また拉致問題、核問題等を総合的に勘案し、解除すべきかどうかを判断していく。当然、6者においての対応もちろん、拉致問題等を含む日朝の協議に誠意ある対応を示してくるかどうか、そうしたことも当然勘案してその時の政府が判断すると思う。
−−万景峰号の入港は禁止したが、他の北朝鮮船籍の船舶は今回、入港の対象にしてい
ない。国土交通省に聞く。平成17年の北朝鮮籍を持っている船の日本の港への入港の数と、そのうち万景峰号の数は何隻になるのか?
枡田交通部長:平成17年の北朝鮮籍船舶の入港実績は769隻。このうち、万景峰号の入港回数は14回。
−−769分の14隻だけが対象になったわけだが比率で言うと、2%以下の船が対象で、それ以外は野放しのままということか。財務省に聞く。対北朝鮮貿易額に占める万景峰号の占めている割合というのはどのぐらいか?
青山審議官:万景峰号のみに係わる貿易統計というのは集計していない。新潟港における対北朝鮮の輸出量がこれにほぼ近い数字になっている。新潟港における平成17年の対北輸出額の合計だが、11億5千2百万円。全国ベ−スは214億1千9百万円なので新潟港が占める割合で言うと、5.4%という数字になる。
−−万景峰号が占める割合は5%台。逆に言えば、95%ぐらいは手つかずになっている。万景峰号だけでなく、すべての北朝鮮船籍を止めるのが筋では?
安倍官房長官:万景峰号というのはある意味ではシンボルになっている。万景峰92号は、我が国と北朝鮮との間に唯一就航している唯一の貨客船で、北朝鮮籍を有し、これまで我が国と北朝鮮との間の人的、物的及び資金的な往来において重要かつ象徴的な役割を果たしてきた。また、過去ミサイル関連機材等の安全保障関連物資の不正輸出の手段や北朝鮮工作員に対する指示、命令の経路として利用された経緯があるなど北朝鮮当局との強い関係が指摘されている。以上を踏まえて、同船の我が国の港への入港を禁止することは北朝鮮の対応を促すための手段として有効であると判断した。なお、同船以外の北朝鮮船舶の我が国への入港については従来どおりの扱いとなっている。今後の対応については、北朝鮮の対応をみて判断していきたい。場合によってさらなる措置もとっていかなければならないと考えている。
●「金英男会見の矛盾と不審点は何か」
△葉梨康弘議員(自民党)
−−金英男氏の会見についてだが、彼の発言、対韓プレス、対日プレス、微妙にニュアンスが違うようだが、具体的にどのような矛盾点、不審点があると考えているのか?
安倍官房長官:矛盾点、不審点として、次のような点がある。北朝鮮へ入域した経緯について、ボ−トで漂流していた際に北朝鮮の船に助けられ、南浦港に到着した旨説明し、拉致ではないと強調している点は、韓国政府の従来の主張と矛盾していると思う。二番目には、幼少の頃に階段から頭を打って以降脳に疾患を患っていたとの説明には今までにないものがあるが、これはめぐみさんが子供の頃に階段から転落し、頭を打ったことはあるものの、診察の結果特段の問題はなかったとの横田夫妻の説明と矛盾している。韓国政府から金英男氏とその家族の面会状況についても情報提供は受けているが、外交上のやりとりに関するものであり、その内容についての公表は差し控えたい。
−−北朝鮮という国内においての記者会見でもあるし、金英男氏の今の職業というものもあり、どこまで信憑性があるかという問題は当然ある。北朝鮮は日本人記者団を平壌に招き、招待所や火葬場を見学させたりしている。ソン・イルホ大使の発言も含めて、最近の北朝鮮当局の動きについての官房長官の見解を聞きたい。
安倍官房長官:拉致問題について言えば、金英男氏にめぐみさんが死亡をしていることを裏付けるかのごとく証言をさせているわけだが、北朝鮮にいる限り真実を話すことはできないということは、日本に帰国した拉致被害者の方々が一様に述べている。つまり、自由な意思に基づく発言はできないということだ。そこはやはり忘れてはならない。私どもは、対話と圧力の姿勢で今後とも臨んでいく。この圧力については、国際社会の圧力、これも大きな力になると思う。そのための努力をこれからも重ねていきたい。
●「改正外為法の発動をなぜ見合わせたのか」
△池坊保子議員(公明党)
−−外務省に確認したい。金英男氏は遺骨を渡した時に外務省にそれは公表しないとの確認書を取ったと言っている。事実か?そうでないならば、外務省はきちんと反論すべきだ。
塩崎外務副大臣:平成16年11月の第3回日朝実務者協議で、キム・チョルジュン氏から、遺骨については横田めぐみさんの両親に直接渡してもらいたい、そして、政府より対外公表はしない、さらに、これを書面に明示しない限りは本件骨片を引き渡さない旨、先方が強く要求してきた。これに対して外務省サイドで、拉致問題の真相究明のためできる限り多くの物的証拠を現地にて収集すべきという基本的な立場から、本件の骨片は横田さん家族に渡し、基本的には公表しないという我が方の考え方をキム・チョルジュン氏伝えたことは事実だ。ただ、その後に、藪中氏を初め外務省の代表が平壌滞在中に、北朝鮮側の外務省関係者に対して、我が方より、本件骨辺については横田さん家族に渡すが、ご家族の意向を踏まえて対外公表する可能性があることを明言し、北朝鮮側もこれに異を唱えなかった、こういう経緯があった。
−−共同通信の調査によれば、80%の国民が何らかの圧力をすべきではと賛意を示している。こういう状況にあってどのような対話と圧力の展望を持っているのか、官房長官の考えを聞きたい。
安倍官房長官:対話をしなければ最終的な解決はできない。これは当然のことであるが、残念ながら北朝鮮が誠意ある対応を示さない、あるいは正常な対話を行わないということであれば、そう促すべく圧力をかけざるを得ないという中において、国際社会においての圧力を高めていくための努力を行ってきた。また、現行法制の中で、法の厳格な執行という形での圧力もかけてきている。
−−一体どのような対話がなされたのか。対話の結果はどうなのか。今や、対話は何の意味もないのではないのか。すべての北朝鮮に籍を置く船は入港を禁止すべきだと思うが、どうか?
安倍官房長官:今後、さらに他の船舶に対して同じような措置をするか、あるいは物や金の流れをどうするかということについては、我々はあらゆる選択肢を持っているということだ。今後、国際社会での議論、安保理での論議を見ながら、また、北朝鮮がどう対応してくるかということにおいて追加的な措置を検討していきたい。
−−改正外為法も発動する必要がある。なぜ、発動を見合わせたのか?
安倍官房長官:私は経済制裁には効果があるという主張をずっとしてきた一人だ。経済制裁、余り効果がないと言う人は、また、そういう人のほとんどは、経済制裁に反対の人が大体そういう議論をしているのではと私は推察している。いずれにしても、我々は、今回の制裁措置が今の段階では適切であるという判断をしている。そして、今後、北朝鮮の対応をみながら、さらなる措置について検討していきたい。
●「6か月後の万景峰号入港制限解除の基準は」
△松原仁議員(民主党)
−−拉致問題に関して進展なくして万景峰号の入港制限が解かれることはあり得ないと、明確に答弁してもらいたい。
安倍官房長官:今後6カ月間の中において、このミサイルの問題、そしてやはり拉致の問題についても、当然、北朝鮮がどういう対応をとっていくか、どういう誠意ある対応を示すかということも勘案しながら、その時に判断しなければならないと思っている。
−−半年後に拉致問題に何ら進展がなく、仮にミサイル問題が解決されたという判断でこれを解除するならば、その瞬間に拉致問題は飛んでしまう。拉致問題の進展がない限り万景峰号の入港制限は解除しないと明確に答えてもらいたい。
安倍官房長官:ですから、6か月後にミサイル問題だけが進展を見た中において解決をするかどうか、それはその時の判断だろうと思っている。
−−くどいようだが、拉致問題の進展がない限り解除しないとの認識でよいか?
安倍官房長官:この判断については、制裁をかける、解除するということは、まさにある意味、時の政府がフリ−ハンドで外交的な手段として、カ−ドとして活用していくものであると思っている。ここで私が6か月後の政府のすべてのそうした判断を縛るわけにはいかない。
−−その時の内閣の中枢に安倍長官がいる場合、拉致が進展しない限りは解除しない、そう言ってもらえればそれでいいわけだ。言ってもらいたい。
安倍官房長官:6か月後のことまで私が断定的に申し上げることはできない。この制裁措置を科した理由の一つに、これは繰り返しになるが、拉致問題について誠意ある対応を取ってこなかったことにおいて制裁を科したわけだ。これが6か月後に北朝鮮がこの拉致の問題でどういう対応を取っているかということは、当然、制裁を解除するかどうかの判断材料の一つになると思う。
−−その他の経済制裁ではなく、再入国禁止を発動した理由について、官房長官の意見を聞きたい。
安倍官房長官:北朝鮮への制裁措置において、我が国への入国制限を行った北朝鮮当局の職員には、北朝鮮政府当局、国防委員会、内閣、人民軍等の職員のほか、北朝鮮のすべての活動を領導する立場にある朝鮮労働党の党員及び職員も含む。また、最高人民会議の代議員及び職員も北朝鮮当局に含まれる。
−−この再入国禁止は、これはもう時限的にいつ頃までに解除するということはなく、当面は永続するとの理解でいいのか。
安倍官房長官:付け加えると、この入国禁止の中には北朝鮮の国会議員も、北朝鮮を渡航先とした我が国への再入国は原則として認められないことになる。今後の対応については、北朝鮮がどう対応してくるかということについて我々は判断をしていきたい。
−−日朝平壌宣言は事実上、骨抜きになってしまっている。この点についての官房長官の所見は?
安倍官房長官:今回のミサイル発射については、ミサイル発射のモラトリアムに反しているわけで、平壌宣言に反していると考えている。一方、我々は、北朝鮮がこの平壌宣言を有効とする以上、また、その精神を尊重していくというふうに言っている以上、この平壌宣言は有効であると、このように考えている。北朝鮮が平壌宣言の精神にのっとって、このミサイルの問題についてはモラトリアムを確認する、あるいは拉致の問題においても全面的に解決するという判断をすることを促していきたいと思っている。
●「拉致被害者8人の安否は?」
△松木謙公議員(民主党)
−−北朝鮮は拉致被害者13人の中、8人はなくなったと言っている。このことを安倍長官はどう思っているのか?
安倍官房長官:北朝鮮側から得た情報、物証には多くの疑問点、矛盾点があり、その後新たな情報提供はなく、北朝鮮側の対応は納得いくものではないと考えている。政府としては、安否不明の拉致被害者がすべで生存しているとの前提に立ち、拉致問題の解決のため北朝鮮に対して生存者を直ちに帰国させるよう引き続き強く求めていきたいと考えている。
△笠井亮議員(共産党)
−−外務省に伺うが、船舶の安全を管轄する国際水路機関、IHOと国際海事機関、IMOが1991年11月に採択した決議は、事前通告の一つにミサイル発射を挙げている。また、国際民間航空条約、シカゴ条約は、危険を及ぼす行為は事前通告が必要と規定している。また、国連海洋法条約は、軍事演習などを行う際には、他の国の利益に妥当な配
慮を払うことを定めていて、IHOやIMOの決議やシカゴ条約は、この規定を具体化したものとされている。北朝鮮はこれら決議や条約に加盟しているのか?
塩崎外務副大臣:国連海洋法条約には北朝鮮は入っていない。それから、IHO条約、IMO条約、シカゴ条約は、北朝鮮はいずれも締結している。北朝鮮は極めて国際法上問題のある行為を今回犯したというふうに考えるべきだと考えている。◆