「経済制裁だけでは問題は解決しない」
衆議院予算委員会(2006年3月)


 拉致問題は参議院予算委員会でも取り上げられた。2006年3月6日の小泉純一郎総 理の答弁と3月8日の委員会での安倍晋三官房長官の主要答弁を掲載する。

              
〔2006年3月6日〕


 片山虎之助(自民党):小泉総理は平壌宣言に署名したわけだから、彼らが賢明なら総理がおられる間に事態の打開を考えている。だから、このところ拉致事件は解決済みと言わなくなった。また、総理も経済制裁のケの字も言わない。私はこういう駄目だ,駄目だいう時こそ話がいくんではないかと思っている。総理はサプライズが好きですからそれ以上申し上げないが、総理の所見を聞きたい。

           
●「鶏が先か、卵が先か、微妙な段階にある」


 小泉総理:私は何もサプライズが好きなわけではない。その時々やるべきことをやっている。北朝鮮訪問についても、発表したときはサプライズと受け取った方が多いと思うが、相手があることだから秘密にしておかなければならない。ただ、秘密を守ることができたわけだから、結果はサプライズだったということだけだ。

 北朝鮮問題については、あの平壌宣言を署名したときに、あの宣言の中に盛られた拉致、核、ミサイルの問題、こういうものを包括的に解決して国交正常化を目指すということだが、今ここに来て非常に難しいなと思っているのは、拉致問題についても私が金正日総書記と会談する前は、でっちあげだとか、デマだとか、やっていないと言っていたのを初めて認め、謝罪したわけだ。二度と起こさないと。それで、北朝鮮側は、あれで拉致問題は解決済みだと思っている節がある。しかし、日本国民、我々はそう思ってない。

 核の廃棄の問題についても、日本、韓国、米国、ロシア、中国は6者協議の場で核の問題を協議して、核計画を破棄させようと言う。日本でやらなければならないことと、この6者協議で協力してやらなければならない問題が出てきた。いわゆる対話と圧力の問題についても日本政府としては対話と圧力で北朝鮮に対して交渉していこうということだ。

 経済制裁ということをよく言われるが、これは一国だけである程度効果があることと、国際情勢全般を見ないと効果に限界があるという点がある。今、私が初めて北朝鮮を訪問して、日朝平壌宣言を締結したときに比べれば、韓国も中国も北朝鮮に対する支援体制ははるかに強化されている。そういうときに日本だけが経済制裁を強めていって効果があるかという問題を考えなくてはいけない。

 核廃棄についても相当真剣に誠意を持って対応してくれるということを期待していたが、最近はこの核兵器と安全保障に対して北朝鮮側と我々の常識が噛み合わない点がある。核兵器を持つことによって得る利益はほとんどない、核を廃棄することによって得る利益の方がはるかに大きいことを金正日総書記との直接会談で何度も話したが、金正日氏は私どもの考え方とは同じではない。自らの安全保障を確保するためには核兵器を持たないと安全保障を確保できないと。どっちが鶏でどっちが卵か、これは微妙な段階にある。

 様々な意見の違いはある。それは、日本の国民から考えれば、誠意がない、けしからんという意味はわかる。しかし、我々としては、北朝鮮側との対話なしにこれからの様々な問題は解決できない。制裁をすれば、懲らしめれば日本の思うようにいくかと、そういう問題ではないと思う。そういう点を総合的に考えながら、難しい相手だけども交渉しなければならない相手が北朝鮮であり、金正日総書記であると私は思っている。これは総合的に包括的に考えなければならない問題だ。

              
[2006年3月8日]


 山根隆治議員(民主党):(北朝鮮との交渉で)誠意ある回答がなければ、日本政府としては次のステップに踏み切らざるを得ないと言いながら、なかなか踏み切れないでいる。特定船舶の入港禁止に関する法律も、それから外為法の整備等もあるのに、先日の小泉総理の答弁を聞いても、今のところ踏み切る意思は見えない。何を躊躇するのか?側にいる官房長官から聞きたい。

            
●「経済制裁は最終的な圧力だ」


 安倍官房長官:残念ながらまだまだ、横田めぐみさんを始めとして、政府が認定している拉致被害者11名の方々は未解決のままだ。我々は、何としても全員の救出を目指していきたいと、こう考えているわけだが、基本的には対話と圧力の姿勢で外交を展開していかざるを得ないと考えている。

 先般も日朝協議が開かれたが、残念ながら北朝鮮側の態度は誠意ある姿勢があったとは言えない。しかしながら、我々は対話をしていかなければこの問題は解決できないと考えている。しかし、対話を時間稼ぎに利用されてはならない。従って、前回の日朝協議の結果から圧力を掛けていかざるを得ないと考えている。  最終的な圧力は議員立法で作っていただいた経済制裁であろうと思うが、それは最終的な圧力であって、それに至る様々な圧力を駆使して、北朝鮮の今までの態度を変えさせていきたいと思っている。◆