「日朝関係も『行動対行動』が原則」
衆議院拉致問題特別委員会(2007年12月5日)


 衆議院拉致問題特別委員会が2007年12月5日に開かれ、対北テロ支援国指定問題及び拉致問題について集中審議を行なった。政府からは町村信考内閣官房長官、高村正彦外相、宇野治外務大臣政務官、新保雅俊外務大臣官房審議官らが出席した。

 山本拓委員長:これより会議を開きます。北朝鮮による拉致問題等に関する件について調査を進めます。この際、高木毅君外二名から、自由民主党・無所属会、民主党・無所属クラブ及び公明党の三派共同提案による米国の「北朝鮮に対するテロ支援国家指定解除」の動きに反対する決議を行うべしとの動議が提出されております。提出者より趣旨の説明を求めます。末松義規君。

 末松義則議員(民主党):私は、自由民主党・無所属会、民主党・無所属クラブ及び公明党を代表して、ただいま議題となりました決議案について、その趣旨を御説明申し上げます。その趣旨は案文に尽きておりますので、案文の朗読をもって趣旨の説明にかえさせていただきます。

米国の「北朝鮮に対するテロ支援国家指定解除」の動きに反対する決議(案)


 北朝鮮は、わが国の国民をはじめとする複数の国から無辜の民を拉致し抑留し続けている。

 拉致は、国家主権及び国民の生命と安全に係わる重大な問題であり、わが国は、全ての被害者の安全確保及び即時帰国、真相究明並びに拉致実行犯の引き渡しを強く要求している。

 一方、北朝鮮は二〇〇二年、長年否定していた日本人の拉致をはじめて認め、その後五人の被害者が帰国を果たしたが、残る多くの被害者に関しては誠意ある説明をせず「拉致問題は解決済み」を主張するばかりである。

 米国は、一九八八年に北朝鮮をテロ支援国家として指定し、二〇〇四年にはその指定理由の一つとして新たに国務省国際テロ報告書に外国人拉致問題を書き込んだ。

 それは、拉致解決を北朝鮮に迫る強い圧力となり、わが国国民を勇気づけ、拉致問題に毅然たる態度で臨むわが国外交を後押しするものとなっているが、米国は一部の核施設の「無能力化」などの見返りとして指定解除を行うのではないかと伝えられている。

 拉致はテロであり、拉致被害者が抑留され続けている以上、テロは今も続いている。本年四月の国務省国際テロ報告書も引き続き拉致問題を明記した。

 抑留されている被害者が帰ってきていないのに指定解除がなされることは、多くの日本国民を落胆させ、日米同盟に重大な影響を及ぼすことを懸念するものである。

 米国内でも安易なテロ支援国家指定解除への危惧が高まり、下院で拉致被害者の帰国などを条件とする法案がすでに提出されており、上院でも同様の動きが出ているところである。

 拉致被害者全員を一刻も早く救出するために、特に、日米関係の重大さに鑑み、日本政府は米国が「北朝鮮に対するテロ支援国家指定解除」をしないよう、最大限の外交努力を尽くすべきである。

 また、米国におかれても、かかる観点から「北朝鮮に対するテロ支援国家指定解除」をしない方針を堅持されるべきである。

 右決議する。以上であります。

 何とぞ委員各位の御賛成を賜りますようお願い申し上げます。(拍手)

 山本委員長:これにて趣旨の説明は終わりました。

 この際、本動議について発言を求められておりますので、これを許します。笠井亮君。

 笠井亮議員(共産党):私は、日本共産党を代表して、米国の「北朝鮮に対するテロ支援国家指定解除」の動きに反対する決議案について発言いたします。

 米国による北朝鮮に対するテロ支援国家指定解除の問題は、六カ国協議の合意に基づいて北朝鮮が進める非核化のための一連の措置への対応措置として検討されているものであり、それに日本の国会がブレーキをかけることは適切ではないと考えます。

 核問題で道理ある解決が図られれば、拉致問題の解決に向けた進展の道も開かれてくるのであります。拉致問題の解決のためにも、核問題の解決のために他国が行っている交渉の手足を縛ることをすべきではありません。

 日朝平壌宣言、六カ国協議の合意に基づいて、核、拉致、過去の清算の問題などを包括的に解決するために、日本政府としての主体的な外交戦略を打ち立てることが強く求められています。拉致問題の解決も、他国任せではなく、解決のための主体的な戦略が必要だということを強調したいと思います。

 以上の理由から、本決議案に反対であることを表明して、発言とします。

 山本委員長:これにて発言は終わりました。

 採決いたします。

 本動議に賛成の諸君の起立を求めます。〔賛成者起立〕

 山本委員長:起立多数。よって、本動議のとおり決議することといたしました。

 この際、ただいまの決議に対し、政府から発言を求められておりますので、これを許します。

 高村外相:ただいまの御決議に対し、所信を申し述べます。

 政府としては、ただいま採択された御決議の趣旨を踏まえつつ、すべての拉致被害者の一刻も早い帰国を実現し、不幸な過去を清算して北朝鮮との国交正常化を図るべく、引き続き米国と緊密に連絡していく考えであります。

△古屋圭司議員(自民党)


 ――現在、テロ支援国家指定解除を行うということは、まず第一点、日米同盟関係に大きな影響を及ぼす懸念があるということ。二番目は、日本人拉致被害者がまだ全員帰国していない以上、テロは現在も進行中でありまして、過去六カ月間の間にテロに加担していないことという解除の条件には当てはまらないということが二点目。三点目は、シリア、北朝鮮の核協力疑惑が全く払拭をされていない現在、イラン、シリア、北朝鮮、この三国のテロ支援国家のうち、北朝鮮だけ先行的に指定を解除するというのは理屈が通らない。また、四番目としては、決議にもありますように、二〇〇四年に米国の国務省国際テロ報告書にテロ支援国家理由として新たに拉致問題というものを書き込んでいる。こういったことを理由に、我々もワシントンで強くこのことを訴えてきて、一定の成果があったというふうに考えている。

 十六日には福田総理・ブッシュ会談が行われたけれども、テロ支援国家指定解除をすべきでないということについて言及をされたというふうに我々は聞いている。そこで、政府は、指定解除反対のためにいかに努力を今後ともされていくのか、この点について官房長官から伺いたい。

 町村官房長官:福田総理は、この指定解除の問題をブッシュ大統領との間でしっかりと話し合ったというふうに私は聞いている。

 ブッシュ大統領からは、拉致問題の日本における重要性というもの、あるいは日本国民の考え方、気持ちというものはよく理解をしている、また、日本政府と日本国民の中にはアメリカが拉致問題を置き去りにして北朝鮮との関係をどんどん進めるのではないかという心配があるという状況も理解をしているけれども、拉致問題を決して忘れることはありえないと。また、北朝鮮は、完全かつ正確な申告、これを今第二段階の中で行われようとしているわけだが、この正確かつ完全な申告を含めて、非核化措置というものをきちんと実施しなければならないこと、また、日朝関係の改善も核問題と並行して進めていく必要がある。こうした幾つかの発言をブッシュ大統領もされたというふうに聞いておりまして、引き続き日米間で今後は閣僚レベルあるいは事務レベル、いろいろなレベルでしっかりとした緊密な連携をしていこうということで、首脳会談でも一致をしたところである。従って、政府としても、拉致問題を初めとした諸懸案を解決し、また日朝関係を進めるために真剣な努力を行っているが、アメリカはこうした我々の努力を最大限支援するということであるというふうに理解をしているところである。

 ――六者協議で本年二月の十三日の合意がまとまった際に、政府は、拉致問題の進展がなければ核問題での進展があっても見返りとしてのエネルギー支援に日本は参加をしない、こういう方針を決定して、議事録にもそういうような記録を載せた上で、ほかの五カ国の了解をとったわけだ。実際、安倍内閣から福田内閣に代わってもこの基本方針に私は変化がないものというふうにとらえているが、この点について官房長官から答弁をいただきたい。

 町村官房長官:委員指摘の、拉致問題に進展が見られない状況でエネルギー供与に参加しない、この方針は何ら変更ない。同時に、政府としては、拉致問題を含む日朝関係で進展が得られれば、六者会合において、経済、エネルギー分野を含め、より大きな役割を果たす用意があるということはこれまでも表明をしてきているので、その点についてもまた変更なしという考え方だ。

 ――では、基本的な考え方に変更はないということで了解をする。そうすると、次の問題になってくるわけだが、我々が訪米する前にも、米国の大使館の関係者であるとかあるいは国務省の関係者が盛んに、拉致問題で進展とはどういうことなのか、あなたたちはどう考えているのか、どういうふうに定義しているのかということをよく聞かれた。政府の正式な国会の答弁は、これも去る三月の二十六日、参議院の予算委員会において、安倍前総理がこういうふうに答えていますね。拉致問題の進展とは、被害者全員を帰国させるという日朝双方の共通認識ができて、かつ北朝鮮が具体的行動をとること、こういうふうに明確に答弁をされている。拉致問題に関する政府の組織が安倍内閣から福田内閣に継承されたけれども、実際にその組織そのものは全く同じような形で継承されている事実もあるので、実際この認識にも私は変化がないというふうに考えているけども、この点についても官房長官から答弁をお願いしたい。

 町村官房長官:具体的に何をもって進展と言うか、これは実際に北朝鮮側の実際の対応を見た上で個別具体的に判断をするということだろうと思う。安倍総理の三月二十六日予算委員会の答弁だか、この点について、私どもも全く同じ考えを引き続き有している。拉致問題を解決するという日朝双方の共通認識があって、それに向けて北朝鮮が具体的な行動をとり、解決に向けて途中段階に進めば、それをもって進展と言えると考えるわけである。そういう意味で、安倍総理の考え、当時と私どもの福田内閣でも全く同じ考え方で臨んでいる。

 ――同じ考えで取り組んでいるということだが、安倍前総理の答弁でも、被害者全員を帰国させるという日朝双方の共通認識、要するに被害者全員というふうに言っているわけだが、では実際、ここで言う全員という場合、どこまでを指すのかというのが議論になってくると思う。今回訪米した際も、米議会関係者から一体何人拉致されているんだということを盛んに聞かれた。実際には、政府認定は十七人いて、そのほかに警察認定の日本人の母の子供が二人いて、それ以外、外交交渉で四十人の可能性のある事案について北朝鮮に情報を求めているだとか、あるいは民間の特定失踪者調査会が四百七十人という人たちを認定しているということは説明したけれども、要するに、北朝鮮に現在何人拉致したのかがはっきりしていないというのが私は実情だというふうに思っている。しかし、今回の核問題でも、北朝鮮が一体何発の核を持っているのかというのは現在全く不明であるし、六者協議はすべての核の廃棄を掲げているわけであって、そして、そのプロセスとして、今回は一部施設の無能力化とすべての核の計画、核物質の申告を求めているわけである。実際それがプロセスに乗っかるかどうかということが今進んでいるわけである。この考えからすると、例えば、まず北朝鮮に、全員ですよ、全員を帰すということを約束させた上でその名簿を日本に提出させる、もし日本がその名簿に納得ができないということであるならば、再提出を何度でも求めていきながら、北朝鮮が認めた被害者の帰国を順次実現させていく、このような具体的なプロセスが始まって初めて全員帰国のための進展と考えられるのではないか、私はそういうふうに思うが、この考え方に対する官房長官の考え方を示していただきたい。

 町村官房長官:この全員というのはなかなか難しい問題である。政府が認定している拉致被害者十二件十七名以外にも、実際に拉致の可能性を排除できない方々がいると私どもも思っている。したがって、全員というのを抽象的に言えば、この十七名以外にも北朝鮮が実際に拉致した被害者全員のことを指す、ちょっとトートロジー的ではございますが、そうとしか言いようがない。私どもも、今、政府としてはとりあえず十二件十七名ということにしているが、さらにほかにもいるだろうということを考えながら、国内外の、日本内外の調査、捜査を進めている。また、北朝鮮に対しては、認定被害者に限らず、すべての拉致被害者の全員の安全確保と速やかな帰国を強く求めていく、こういうことで、この認定被害者以外の可能性というものも十分に認識しながら北朝鮮と交渉を進めていこう、現実にいっているところだ。

△江田康幸議員(公明党)


 ――六者協議という国際的なフレームに加えて、日朝という独自の対応も大変重要であると思います。拉致問題解決に向けての具体的な方策について、改めて外務大臣に伺いたいと思う。

 高村外相:政府といたしましては、日朝平壌宣言にのっとり、拉致、核、ミサイルといった諸懸案を包括的に解決し、不幸な過去を清算して国交正常化を実現する、そういう方針に変更はない。

 対話と圧力については、双方が必要であるが、それらの間のバランスを考えることも重要と考えている。対話にしても圧力にしても、関係国、さらに広く国際社会の理解と協力を得ることにより効果的、実効的なものとなることがある点にも留意する必要があると考えている。

 十月三日の六者会合成果文書では、早期に日朝国交正常化を実現するために日朝双方が誠実に努力すること、また、そのために精力的な協議を通じ具体的な行動を実施していくことが確認されたわけである。今後、六者合意も含め、北朝鮮が拉致問題の解決を含め日朝関係の改善に向けた具体的な行動をとることを期待しているわけである。

 ――それでは、町村官房長官にまた伺いたい。米国では国務省の主導で、北朝鮮の核無能力化と引きかえに北朝鮮へのテロ支援国家指定を解除するという動きが進んでいる。先ほど古屋先生も御指摘になられたところだ。もし解除となったら、北朝鮮にとって、これは世界銀行やアジア開発銀行からの援助を米国の反対なく獲得できることや、さらには、凍結されてきた北朝鮮の在米資産約三千万ドルが得られるわけで、さらに、日本人拉致は解決済みとして扱われるという利点を生んでしまう。一方、日本にとっては、北朝鮮の拉致問題への責任免除に等しい上に、北朝鮮への経済制裁が骨抜きになる、こういうような問題になるわけだ。被害者家族の方々も、指定解除がされた場合、拉致問題が置き去りにされてしまう、そういう危機感を持たれて、今回もまた訪米され、ヒル国務次官補を初めとして関係者に強く訴えておられることだと思う。十一月の十六日の日米首脳会談は、日本から米国に、拉致問題の解決まで北朝鮮のテロ支援国家指定解除をしないように働きかける最重要の機会であったし、絶好の機会であったと思う。しかし、福田総理は、ブッシュ米大統領が拉致問題について忘れないとの強い思いを示されたことから、テロ支援国家指定を解除しないよう直接的に求めることまではしなかったと伝えられている。これはあくまで報道ベースの話ということだから、首脳会談の中でこの拉致問題についてどのようなことが具体的に話されたのか、アメリカとの信頼関係の範囲内でよろしいですので、教えていただきたい。

 町村官房長官:先般の首脳会談の内容、一言一句のやりとりにわたる部分は差し控えさせていただきたい。福田総理からは、テロ支援国家指定解除問題をブッシュ大統領との間でしっかり話し合ったというふうに私は報告を聞いている。

 福田総理からは、我が国が北朝鮮に対して拉致問題での進展を求めており、特に被害者の帰国を重視していることなどを具体的に説明したということだ。これに対してブッシュ大統領からは、拉致問題は日本における大変重要な問題であるということをよく理解しているし、また、日本政府と日本国民の中には、アメリカが拉致問題を置き去りにして北朝鮮と関係改善を進めるのではないかという心配があるということもよく知っている、アメリカは決して拉致問題を忘れることはない、北朝鮮は完全かつ正確な申告を含めて非核化措置をしっかり実施しなければいけないし、また、日朝関係の改善も核問題と並行して進めていく必要がある、こうした発言があったというふうに聞いている。

 ――六者会合の場では、拉致問題の進展と朝鮮半島の非核化が同時並行的に協議されることになっているわけだが、そこで、拉致問題の進展をテロ支援国家指定解除の条件とするために政府として何か具体的な方策を持っているのか、それについてお答えしていただきたい

 町村官房長官:アメリカによるテロ支援国家指定解除の要件というのは、これはアメリカの国内法令なので、この解釈問題について政府がこうである、ああであるというような有権的な解釈をするという立場にはないわけだが、アメリカは従来から、テロ支援国家指定解除をするか否かにつきましていまだ決定していないし、また指定解除が実際に行われるか否かは北朝鮮による非核化措置次第である、その際には拉致問題を含む日朝関係の進展も考慮されるという立場を明らかにしている。

 こうした立場というものは、日米間のいろいろなレベルでの話し合いの結果、そういう方針、考え方を米政府は持っているということで、引き続き日米間、緊密に連携をしながら、拉致問題がしっかりと前進をするように、進展するように、政府としても全力を挙げていきたいと思っている。

 ――これらの一連の報道を見ると、拉致問題に対する米国政府や議会のとらえ方は、極めて限定的であって、この問題の解決や進展に対する我が国の認識とはかなり隔たりがあるように思えてならない。したがって、テロ支援国家の指定解除をしないよう働きかけることが第一に重要なことではあるが、同盟国として拉致問題解決に協力してもらうべきアメリカに政府がしっかり日本側の考え方を伝えて、認識を共有してもらう必要があるのではないかと考える。そこで、伺うが、拉致問題に関する情報について、日本側は米国に対してどのような内容を、どのような方法で、どのような立場の人にこれまで伝えてこられたのか。

 宇野政務官:米国との間では、拉致問題に関するものを含めて、平素からさまざまなレベルでの情報交換をしている。しかしながら、今回のこの拉致問題につきましては、米国政府との関係もあり、また事柄の性質上もあり、その詳細を明らかにすることについては、差し控えさせていただきたい。

 ――大変簡単な答弁だ。やはり、この点は大変重要だと思う。今提出されている下院への法案も、それだけ多くの方々が米国議会で理解を示してくださることを大変期待するわけで、もしアメリカ側に、一定の北朝鮮の協力姿勢が見えたら、これを進展として国家指定解除へ向けて突き進む、こういうようなことがあってはならぬわけで、ですからこそ、政府が、日米双方に認識の差があってはならないと思うからこそ今の点を確認させていただいたわけだ。言えないところもあるし、外交なので、そういう点において特に強く要望をおく。

 高村外相:認識の差がない、あるいはできるだけ少なくする、そのために最大の努力をするのは当然のことだと思っている。これからも努力をしていきたい。

 それと同時に、アメリカは必ずしも、段階的にやる、こういうことを言っているわけではないと思う。ただ、先ほど官房長官も言ったように、日本にしても実は何人拉致されたかというのはわからないわけで、これで完全に全部帰ってきたかどうかということがわからないような状況の中で、段階的ということもあるかもしれない、そういうことを言っているんだろう、言っているとしたらそういうふうに思うし、何も、アメリカだって全部一遍に解決した方がいいと思っているに決まっている、こういうふうに私は思っている。

△末松義則議員(民主党)


 ――先ほど高村外務大臣が言われたように、何人拉致されているのかわからない、これが一番大きな問題であると。それがために、例えば今、日本で認めている十二件十七人プラスその可能性のある方々、こういうことでしか、この方々がまずは帰ってくることとしか言えないわけだが、そうすると、進展という言葉を使って、徐々に、例えば数人帰ってくれば、これまた北朝鮮との間で進展があったということで、それがゆえにアメリカは例えば指定解除をする、こういうふうなことも考えられるわけだ。そういうことについて、外務大臣として、今のような考え方、ステップ・バイ・ステップというか、そういう形で、北朝鮮との関係、あるいはアメリカのテロ国家指定解除ということに対してどういう立場で臨むつもりなのか伺いたい。

 高村外相:だれが見ても完全な解決だね、全部帰したねと思われることがあれば一番いいに決まっている。ただ、はっきり言って、何人拉致されたかわからない状況の中で、これが全部だといって何人かの方が帰ってきたとした場合に、我々は全部だと確認できないけれども、ではそういうのは進展と認めないのか、解決とまだ認めないにしても進展とも認めないのかというと、なかなか外交交渉も難しくなるということはあり得ると思う。

 そういう中で、今、具体的にどれだけ帰ってきたら進展と認めて何をやるんだとか、そういうことを当てはめる必要は必ずしもないので、北朝鮮側が具体的にどういう行動をとるか、それについて我々はどう考えるかということであり、それについて、進展といったって度合いがあると思う。行動対行動といったって度合いがあると思う。だから、その度合いは、我々からすれば大きければ大きいほどいいし、解決であれば解決が一番いいわけですが、そういう中で、アメリカに対して、ではどのくらいだ、どうだ、そういう話をするのではなくて、今緊密に話をしながら、少しでもそのテコとして指定解除の問題を使わせていただこう、そういう緊密な協議を行っている、こういうことです。だから、どれだけどうだか今ここで言えというのはちょっと無理な話だ、こう思う。

 ――無理な話をしているわけではない。つまり、考え方のフレームワークとしてどういうことなんだと言っているわけです。だから、確かに先ほど町村官房長官が、エネルギー協議、それは今進展がなければやらないと言った。ということは、逆に言えばそれは、例えば何名か帰してきた、あるいは明らかにしてきた。そうしたら、それの度合いですよね。度合いに応じた形で、日本政府も北朝鮮に対して、さらに言えば、国交正常化のための形の話し合いを進めていくのかどうかとか、あるいはもしアメリカのテロ指定解除ということがあるとすれば、これに対して、日本国家としてそこは、できるだけそれはテコとして使うんだから、最後まで使うというのは当然なんだけれども、その前提の上で、一歩一歩こちらも、何か歩み寄りみたい形をやっていくという形で日本の政策が動いていくということを確認したかったわけだ。だから、一方で、一応いろいろな経済制裁をやっているが、それも、その度合いに応じて少しずつ緩めていくとか、この考え方のフレームワークがどうなんだというのが、私の質問です。

 高村外相:六カ国協議全体を貫く原則、その中に、日朝関係も含めて行動対行動の原則というのがある。行動対行動の原則。ですから、北朝鮮が行動をして、そして、例えば拉致の問題について前進があったら、その前進の進展の度合いに応じてこちらも行動をとる。そうでなければ外交交渉は成立しないから、行動対行動の原則というのは日朝関係にも当てはまる、こういうことだと思う。

 ――しかし、外交も交渉事ですからね。いろいろな形でやっていく。スマートだけが外交じゃありませんからね。(高村国務大臣「声高だけも外交じゃない」と呼ぶ)そう、それを硬軟織りまぜながらの話でしょうから、そこはぜひやっていただきたい。

 ちょっと私の方で、時間もなくなってきたので、あと聞きたいことを聞くけども、政府の方で今具体的成果がないというのは、これは何回も政府側でも言っているわけだ。こういう状況を見ていて、私ども、この委員会、議員外交というのもここは一つの突破口じゃないかと思う。

 先般、当委員会の理事会で、例えば両院の拉致特委員会の理事等を中心に北朝鮮を訪問して、そして議員外交をやっていくのもこれは一つの有効な方法じゃないかという話があった。私もそこは賛成したわけだが、ぜひ継続的に、引き続き、委員長におかれても、議員がこういった意味で外交を行っていく、北朝鮮に対して訪問していってパイプをつくっていく、それは有効と思うが、引き続き理事会でも検討をいただきたいと思うが、委員長、いかがですか。今のアイデアについて、政府の方で何かコメントは?

 町村官房長官:一般論として言えば、議員外交、政府だけが対外関係を独占する時代ではない。議員が議員として国民の声をいろいろな形で先方に伝えるということは私は常に有効なものである、こう考えている。ただ、現下の北朝鮮に対して果たしてそれがどれだけ意味があるかということは、よくよく考えなければいけない部分もある。何しろ相手は、ポーカーに例えてはあれかもしれませんが、こちらの手のうちは日々の日本の報道等々を見ているとあらかた、相当程度わかる。こちらは、相手側が一方的にテレビ等々で言っている以外の情報というのはほとんどない。まことに均等でない条件でポーカーをやっているものですから、そういう意味で、今、北朝鮮との特に交渉事については、政府で一元化してやはりやっていく必要があると思う。理事会での協議の結果は、理事会というので、これは国会が決めることなので、政府があれこれということは申し上げるつもりはない。あくまでも一般論として申し上げさせていただきました。

△鷲尾英一郎議員(民主党)


 ――ちょっと質問を変えるが、〇四年に国務省の年次報告の中に、テロ支援国家指定の理由に拉致が加わったというところであるが、国務省の報道官によると、拉致問題とテロ支援国家指定解除の問題は必ずしも具体的には関連づけられないという話が報道官からされている。もっと具体的に言うと、核無能力化によって解除されるということが報道官によってコメントされている。これは政府としてどういうふうにとらえているのか。核無能力化によって解除されると報道官が言っているわけですから、このことについてどう思われているかということを聞きしたい。

 高村外相:私もいろいろ聞かれて、全体を答えないである部分を一部だけ答えて、こっちはどうなんだと後で聞かれることがあるけれど、報道官はある一面を述べられたのかなと思っている。確かに、アメリカは一貫してテロ支援国家指定の解除は北朝鮮の非核化が進むかどうかだと言っているが、一方で、ずっと前から今日に至るまで、解除の際には拉致問題を含む日朝関係の進展も考慮する、これは、ほとんどというか、ぶれていない、ずっと言っているわけです。だから、そういう場合に第一義的な部分だけに報道官が触れたこともあるかもしれないが、その両方をずっと言っているということは変わりない、こう思っている。

△松原仁議員(民主党)


 ――日本の政府は、北朝鮮はこの半年間拉致被害者を日本に帰さないという意味でテロをし続けているという御認識をお持ちかどうか、伺いたい。

 高村外相:拉致被害者が帰ってこない以上、テロは継続していると私は思っている。私個人は、拉致は国家テロだ、しかも、現在進行形という言葉は使わなかったけれども、それは継続中のテロであるというのは、多分アーミテージさんより先に言っていると思う。

 ――外務大臣の発言として私は尊重したいし、重いと思っている。日本政府は、北朝鮮はこの半年間拉致というテロを継続している、北朝鮮はテロをしているということを今外務大臣はおっしゃったわけだ。であるならば、北朝鮮のテロ支援国家指定解除のアメリカの国内法の要件は半年間テロをしていないということであるから、この要件は、他の国の法律であるのでどこまでコメントできるかは非常に微妙かもしれないが、少なくとも我々の認識では北朝鮮はテロをしているから、この国内法のテロ支援国家指定解除の要件は満たされていない、外務大臣、こういうふうにおっしゃっていただきたい。

 高村外相:アメリカの法令について日本国外務大臣がこうだああだと言うのは、これは僣越だと思います。我が国憲法九条の解釈はこうだとアメリカの政府から言われたら、私は非常に不愉快であります。それは、我々政府の人間として、アメリカの法律自体の解釈をどうだということは申しません。ただ、私個人が一般的な感覚として、拉致は国家テロですね、そして今も解決していない以上はその状態は続いていますね、こういう意識を持っているということを申し上げた。

 ――官房長官は、北朝鮮がこの半年間テロをし続けている、テロを継続しているという認識を外務大臣と同じように共有しているかどうか、伺いたい。

 町村官房長官:共有している。

 ――この拉致問題の解決というのは、拉致を指示した実行犯というのは、何回も聞いた話であるが、だれが拉致を実行させたか。さっき外務大臣は国家テロだと言った。国家テロを実行できるのは国家の最高権力者しかいない。国家テロだと言った拉致を北朝鮮のだれが指示したか、おっしゃっていただきたい。

 高村外相:今一番大切なのは、拉致された人を全部日本に帰すこと。これが一番大切なんですよ。それに対して、私は、どういうふうに行動し、どういうふうなことを言ったら一番いいか、判断しながら申し上げている。だれが指示したか、私にはわからない。

 ――この問題は、北朝鮮というのは、今まで嘘の死亡診断書は出してきたし、さっきの鷲尾議員の議論じゃないけれども、枠組み合意も嘘を言った。私は、極端なことを言えば、だまされるのがわかっていて交渉している人たちも中にはいるかもしれぬと思う。不可逆的が無能力化になった、ハードルをそこまで下げている。もちろん、その後があると言うけれども、その後はこんなものはどうなるかわからない。ハードルを下げるということを平然と米側も、クリストファー・ヒルはやってきた。さすがに、さっきのブラウンバックさんの話じゃないけれども、本人たちがとにかく一つの成果を得ようという前のめりの姿勢が、それは議会から見たって、ちょっとあれじゃないか、こんなのでまただまされるのか、こういう話ですよ。だから、この問題に対してはハードルをもう一回上げた方がいい、こういうふうな話になっているわけである。

 北朝鮮がこういうふうな核を持っていますと当初申告をするわけでありますね。この申告の信憑性をどのようにして証明するのか、どのようにして証明された申告を日本国民は了解するのか、伺いたい。

 高村外相:これはそう簡単な話ではないと私も認識しているが、アメリカが一番そういう知見を持っていると思うが、日本も全然持っていないわけではない、そういう中で五カ国が検証して、そしてこれが完全か、完全でないか判断していく。御質問がどういうふうに検証するんだと言っているのに、答えていないじゃないかと言うかもしれませんが、それはなかなか、私が今ここで、こういうふうに検証すると言えるような話ではない。

 ――北朝鮮が、申告で、こういうものを持っています、これをなくしますとか、無能力化しますとかと。その中に核兵器が入っていないということが仮にあったとしたら、それは嘘である、こういうふうに普通は認識するが、大臣はいかがですか。

 高村外相:今の時点で私がどうということは申し上げられませんが、まさに専門家が、アメリカ含め、日本の専門家も含めて、五カ国の専門家がそういうことをきっちり検証する、こういうことだ。

 ――専門家が自分の意思で自由に北朝鮮を歩けるわけじゃない。北朝鮮が、ここに核があります、核関連施設がありますと言うところしか行けないわけであります。こういうものを、常に嘘をつき続けてきた国家のそういう挙動を信ずるということは、それはできないですよね。初めから、だまされていいよ、今回はひとつまたもう一回北朝鮮に担がれてみようか、そう思っているんだったらそれはやればいい。しかし、日本の場合は直接我が国の安全保障に極めて甚大な影響があるわけだから、それはそうはいかない。申告が正しいという証明をどのようにするか、このことについてアメリカとは議論しているのか。

 新保官房審議官:この問題については、まず北朝鮮からの申告を待つということになるが、それについてどのように検証していくかということについてはさまざまな場面で議論はしている。ただ、その内容についてはここで申し上げることは差し控えさせていただきたい。

 ――大体、死亡診断書だって全部嘘だったんだから、この申告を信じろという方が難しい、どういう申告がなされるかわからないから。その嘘と極めて思われる申告を信じて議論すること自体、土台が腐っているんだから話はうまくいくはずがない、率直に私はそう思う。そういう議論をする中において、どのようにして拉致問題を解決するんだ。北朝鮮は一貫して拉致はもう決着済みだと今言っている。今回、北朝鮮テロ支援国家指定解除が、それは本日の決議もあるでしょう、我々議連も訪米をしていろいろと活動したこともある、そういうことを通して踏みとどまればいい。しかし、これが逆に解除されてしまったら、米側も日本に対して、テロの問題に、拉致というものはもう半分解決をされたのだというような国際的なメッセージの発信になってしまう。それはやはり阻止しなければいけないと思ったわけである。やはり不可逆的という言葉はずっとボルトンさんの時代から使われていた、無能力化になった瞬間に、事前に米側から日本に相談があったのかどうか、ちょっとこれを伺いたい。もう時間がないから簡潔にお願いする。

 高村外相:不可逆的が無能力化に変わったのではない。我々は、北朝鮮を除く五カ国とも、最終的には廃棄を求めている。その途中の段階で、第二段階において無能力化をやるということ。先ほどから委員が言っていることは、北朝鮮と交渉するなんて全く無意味なことだということをおっしゃっているのに等しい。そういう立場なんですか。立場をちょっとはっきりさせて聞いていただきたい。

 ――私は、交渉することが無意味だなんて言っていないですよ。いいですか、問題は、どのようにして申告を正しいと認識するかという検証のあり方はアメリカがやっていることだ、そんな他人任せはないということを言っているんですよ。我が国として、少なくとも、どういうふうにやるなら、日本としてはその申告をある程度認めようとするのかという議論すら今行われていないでしょう。そういう議論が行われているんですか。私は、交渉が無意味なんて言っていないですよ。今まで北朝鮮は、死亡診断書だって何だってインチキを上げてきたじゃないか。だから、申告を素直に待っていてという議論じゃないということを言っているんですよ。

 それから、今、無能力化と不可逆的ということは、第一義的に不可逆的という文字が従来は出ていたんですよ。最終的には完全な廃棄かもしれないけれども、第一段階においてそこまで緩めてしまうということは外交上よろしくないと私は思っている。