衆議院外務委員会(2007年2月21日)


 麻生太郎外相が出席して開かれた2007年2月21日の衆議院外務委員会での質疑応答を掲載する。麻生外相のほか佐々江賢一郎アジア太平洋州局長が答弁に立った。

●米国の対北政策は変化していない


△伊藤公介議員(自民党)


 ――6か国協議をどう評価しているのか?

 麻生外相:北朝鮮を除く5者の共通の最大の目的は北朝鮮を核保有国にしないということだ。その意味では今回はその第一歩として一応の成果を得たと理解している。寧辺の核施設の凍結、封印やIAEAの査察のうえに核計画の完全な申告の提出と既存の核施設の無力化というところまで踏み込んだことが従来と大きく違うところだ。問題は、これがちゃんと履行、実行されるかどうかだ。北朝鮮が誠実に対応するかどうかが一番の問題だと思う。5か国が連携して見極めていく必要があると思っている。

 ――米国が後退しないことが日本の外交にとって大事なことだ。米国は優先順位を核の廃棄から核の拡散防止に移ったのではないか?米国の対北朝鮮政策に変化があるのかどうか聞きたい。

 麻生外相:米国は従来から核の不拡散には強い関心を有していた。これには最初から一貫して取り組んできた。米国は初期の段階から6者共同声明の完全実施を言っていた。北朝鮮に対して核の早期放棄を強く求めていた。その点では一貫していた。米国の対北朝鮮政策が今回の6か国協議期間中に変化したとは思っていない。

 ――6者会合を見ていて、それぞれの国のスタンスが違う。中国や米国にとって核と拉致についてはそれぞれ考え方がある。一部には日本が孤立するのではとの見方がある。私は日本の外交はよくやっていると思っている。むしろ拉致問題で北朝鮮にもっと強いメッセージを送るべきと思う。外相の考えは?

 麻生外相:日本が孤立しているというのは自虐的だ。孤立したのは北朝鮮であって、日本ではない。拉致問題は日米、日中、日韓の間で随分と取り上げられてきたし、国連総会でも人道問題として拉致という問題が提起された。拉致問題を抱えている日本の事情を少なくとも他の4か国は理解してくれていると思っている。100万トンの重油について日本は関与しないということを他の国に納得させたうえで、6か国協議の合意に至ったということだ。拉致問題は日本だけで北朝鮮との一対一の交渉の結果、大きな成果が得られなかった経緯がある。国連の総会決議を通しても動かない国なので、対話と圧力のうちだんだんと圧力を強めざるを得なかった。圧力なくして対話ができなかったというのがこれまでの歴史だったので、今後とも窓口を閉めるつもりは全くないが、圧力なくして対話はないとのこれまでの経過を踏まえて対応していく考えだ。

●誠意がなければ、制裁ということになる


 ――北朝鮮が手を上げて、拉致問題を解決しなければ大変なことになるとの追い込む選択肢もあっだが、韓国、中国、米国も手を緩めることになっていく。北朝鮮が拉致問題をそのままにしても生き延びていくとの選択を持ったとすれば、拉致問題は置いてきぼりになる。今が勝負だ。拉致問題を解決しなければ、もっと厳しい制裁をやるとの強い決意を表明すべきでは?この協議の状況によっては制裁をもっと厳しくするとの選択肢はあるのか?

 麻生外相:30日以内に日朝交渉が開催され、60日以内にという一応の目安が協定の中にある。交渉は相手の対応次第だ。誠実でなければ制裁、もしくは相手が敬意を示して降りてくれば緩めるとか、いろいろな選択肢がある。その逆の意味で、全然誠意がなければ制裁ということになる。

△山口壮議員(民主党)


 ――6者協議の合意は本当に効果があるのか、一般国民は心配している。究極的な非核化に向けてどのような検証が行われていくのか?

 麻生外相:交渉で合意がされた後、当然検証が必要だ。合意文書には60日以内にやることが明記されている。初期段階の措置では寧辺の核施設の凍結と封印についてIAEAの監視官を入れてきちんとやることになっている。また、次の段階の措置では、すべての核施設の完全な申告と無力化についても同意しているので、今後非核化の作業部会で措置を検討していくと思う。日本も作業部会に参加することになるので、日本もしかるべき人を出して、作業部会で検証をしていく。

 
●核兵器保有の前提に立っていない


 ――今回の合意文書に核兵器は言及されているのか?

 麻生外相:北朝鮮を核保有国として認知しないというのが5か国の共通認識だ。従って、核兵器を持っている核保有国という前提に立って相手にしているわけではない。

 ――共同文書で核兵器については言及されているのか?

 麻生外相:核兵器国として認めていないので核兵器に関する定義、記述はない。

 ――では、北朝鮮は全く核兵器を持っていないとの認識でいるのか?

 麻生外相:我々としては北朝鮮が核兵器を持っているという前提で核兵器保有国として相手にしているわけではない。

 ――建前はわかるが、外務大臣として北朝鮮の核兵器の保有をどのように認識しているのか?

 麻生外相:何度も言うが、暫定的なことは言えない。しかし、持っている可能性については否定できない。

 ――知っていて言えないのか、現実によくわからないのか、どちらか?

 麻生外相:暫定的なことは言えないということはそういうことだ。

 ――この点については米国もよくわかっていない。これが問題だ。8発とか10発とか推定はされている。米国も確たることはわかっていない。従って、核兵器が実は何発あるのかもわからないので、なくしていくという検証は今回の合意ではむずかしい。そうなると、金正日さんの誠意にすがるほかない。核兵器だけでなく、高濃縮ウランもプルトニウムもどこにどれだけあるのかわからなければ検証はできない。大臣の考えを聞きたい。

 麻生外相:相手は極めて閉ざされた北朝鮮なので中に立ち入って、検証ができなかったのがこれまでだった。今回は初めてできることになると思う。共同声明の中に核計画という言葉がある。核計画の中に普通核爆弾が含まれるというのが常識だ。

●制裁は効いたと思っている


 ――検証についてはいつまでに行い、どのようなメカニズムで行うのか?

 麻生外相:基本的にはIAEAの査察だ。これ以上のプロの査察はほかにない。IAEAが査察をやるわけだが、どのように、いつまでやるかは作業部会で決まることになる。作業部会は60日以内に立ち上がることになっている。60日以内にある程度の形ができると思う。

 ――本来はそういうことが前もって決まっておくべきだ。外務省は金融制裁がしっかり効いている、もう少し待ったほうがいいと言っていたが、米国務省は違うようだ。金融制裁が効いているのならば、もう少し待ったほうがよかったのでは?

 麻生外相:金融制裁がどのぐらい効いているのかそれはわからない。あのような閉鎖的な国なので、わからない。国連の制裁や、日本の万景峰号の入港禁止など一連の圧力の中にBDAがあったのは間違いない。では米国がなぜ急いだのかはわからない。少なくとも時間をかけることが向こうにとって得か、こっちにとって得かいろいろ考えたのでは。

 ――米国はテロ支援国指定から北朝鮮を外す方向に向かっているのか?

 麻生外相:米国がテロ支援国リストから外すことで合意したということではない。

 ――日本は拉致問題を抱えているので、米国が容易に解除しないようブレーキをかけるべきだ。日本は頑張らなくてはならない。拉致問題はどこまでいけば、解決と言えるのか?

 麻生外相:この点については貴方と意見の分かれるところだ。何人拉致されたのか、我々には正確な数字はわからない。日本の警察では13件17人となっているが、本当にそれだけなのか。本当にそれだけだなと念を押されても。国会議員のお兄さんのように拉致された疑いのある人もいるし。横田めぐみさんが帰ってきたということになれば、ひとつの大きなステップとはなるが。どの辺までいけば完璧な答えになるのかは正直言って、我々のほうも正確なところができていない。どれをもって拉致問題が完全に解決だと、国民的合意ができているかというとなんともわからない。すべて生存しているとの前提に立ってすべての人々の全員帰国というのが我々の最終目標である。それが果たして可能なのか、できる状態にあるのか、正直言ってわからない。

 ―― 一番難しい問題を聞いてしまったようだ。正直に答えてもらったと思っている。拉致の問題が解決しなければ、5万トンであろうが、100万トンであろうが、支援はしないと理解してよろしいのか?

 麻生外相:日朝作業部会でこの問題を協議することになる。我々は日朝の問題が解決しない限り、何が日朝問題かと言えば、いろいろあるが、日朝問題が解決しない限り応分の負担をする考えはない。

●進展があるとは楽観していない


 ――拉致問題にはどこまでかという基準がないわけだ。他方、これがないから、どこまでいけば解決になるのかはっきりしなければ、そういう話が残る以上、支援はできないということになっているわけか。

 麻生外相:日朝問題に関しては、拉致について進展がなければ、誠意ある対応とか回答とか進展がなければということだ。解決となると、何を持って解決かということになるので。我々としては進展がない限り、応じるわけにはいかない。

 ――となると、進展という中身が問題となる。何を持って進展とみなすのか?

 麻生外相:何を持って進展とみなすかは難しいところだ。相手の対応をみてからのことだ。どれだけ誠意ある対応を引き出せるのか、楽観的にはなれない。ここまで追い込んだので大丈夫だとの楽観論もあるが、私はそうはみていない。

△長島昭久議員(民主党)


 ――合意の意義は拉致を6か国とリンクさせたことだ。日本を動かしたかったら、北朝鮮を説得しろ、これしかない。米国や中国の影響力を期待するほかない。日本に文句を言うのではなく,北朝鮮に文句を言う枠組みを作ったと評価している。しかし、ジュネーブ合意と今回の合意の違いはどこにあるのか?

 佐々江局長:非核という点では大きく分けて前回とは3点異なる。前回は米朝合意であったが、今回は、6者の合意である。6者の監視の下で行われるということだ。それと、94年の時は寧辺の核施設の凍結だけだったが、今回はすべての施設を申告することになっている。対象が広いということだ。また、施設について無力化することになったことだ。稼動できないという状況にしたことで、94年の合意を超えている。それで意味があると、重油の供給に同意したわけだ。3点目は94年の時は50万トンを米国が毎年供与したが、今回の場合は、無力化を行うことの組み合わせでエネルギー支援、95万トン相当を支援することになっている。現状が続いたままで毎年支援するということになっていないことだ。一回限りの支援となっている。また、枠組みの中には米朝交渉、日朝交渉も入っている。さらにその延長上の将来の北東アジアの平和と安全のメカニズムをつくる。より大きな将来を見通した枠組みであることだ。

●無力化合意は次善策であった


 ――6者の場合、メリットもあるが、デメリットもある。非核化について日本は核のプログラムが存在すること自体が脅威となっている。今回の合意にプルトニウムという言葉が入っているのにどうしてウランという言葉は入っていないのか。無能力という言葉があるが、解体ではなくて、どうして無能力となったのか?

 佐々江局長:ウランが入っていないことについては、我々は共同声明には廃棄の対象に含まれているという立場だ。しかし、濃縮ウランの存在について北朝鮮側とは依然として意見の一致をみていない。従って、その点については非核化作業部会で話し合いが行われていく。我々は完全な核の申告の際に核の廃棄を求め、北朝鮮に対応していく考えだ。無能化については、我々としては一昨年の共同声明で合意したことは完全な廃棄である。これが最終的な合意であることは明らかだ。今回の協議の出発点は、共同声明を履行するための初期の措置であるとの位置付けとみている。もちろん、我々としては初期の段階で解体を求め、交渉を行ったが、残念ながら、北朝鮮は非核化することに同意しなかった。従って、事前の策として、現状の単なる凍結ではない、非核化、完全なる放棄に近い中間段階で最終的には合意せざるを得なかった。無力化については何を意味するのかということだが、元に戻れない状況、即ち、もう二度と稼動できない状態を指すのが5者の共通認識であるし、そのことは北朝鮮も理解していると思う。何をもって無力化の状況と言えるのかについては対象となる施設の具体的な中身に照らして作業部会で詰めていくことになる。我々が評価しているのは、これが最終的な非核化に向けた相当大きな質的なステップとしてみている。

 ――北朝鮮は追い込まれて出てきたのか?それとも、米国が焦って合意したのか?北の判断は核の放棄をしなければならないとの戦略的な決断をしたのか?それともエネルギーのための戦術的転換か?

 麻生外相:国連制裁の全会一致も効いた。万景峰号入港禁止も効いた。バンコ・デルタ・アジアの凍結も効いた。6者が一緒だったのも効いた。追い込まれたのではないか。

 ――もう少し、圧力の効果を見極めたらどうか。やっと昨年秋から国際社会が制裁に出てきた。もう少し待てば、戦略的決断をしやすい環境をつくることができたのではと思っている。もう少し、じらしたらどうだったのか?

 麻生外相:中国は暴動とか、崩壊は避けたいでしょう。韓国も難民の流入を恐れているだろう。北朝鮮が決定的な崩壊というところまで追い込まれているのかわからない。北朝鮮の内情については中国や韓国が詳しい。本当に北朝鮮がしんどい状況にあるならば、かなわないと彼らが思うのも理解できなくもない。今回のところはそこそこと思う。

 ――テロ支援国指定解除については日米の認識は共通しているのか?

 麻生外相:共通認識はある。

 ――2005年4月28日にテロ支援国指定に関する国務省の報告書が出ているが、今年も4月に出る。米国が拉致をテロと関連付けているのかこれが試金石となる。それと、遺骨問題について米国務省の報告書には日朝間の論争になっていると書かれているので、訂正を求めるべきだ。

 麻生外相:偽遺骨だったということをきちんと言っておくようにする。指定の解除ではなく、解除のための作業を始める合意になっている。おそらく日朝の話し合いをみたうえで対応するということだと思う。◆