2011年10月20日(木)

何のための野田訪韓?

 シャトル外交の順番からすれば、本来ならば今度は李明博大統領が訪日する番だが、外交慣例に反してまで野田総理が訪韓した。訪韓しなければならないほど今すぐに解決しなければならない急務、懸案があるのだろうか?

 「どじょう総理」がニックネームになっているからというわけではないと思うが、野田総理は訪韓前に「訪韓の際は、是非どじょうのスープをいただきたい」と言っていたそうだが、韓国に到着したその日(18日の夜)に早速ソウル市内の焼き肉店で堪能したようだ。まさか、どじょう食べたさが故の訪韓ではあるまい。

 また、野田総理は李明博大統領への手土産に返還を約束していた「朝鮮王朝儀軌(ぎき)」など朝鮮半島由来の古文書1205冊のうち5冊を持参したが、直接伝達するためにわざわざ訪韓したわけでもあるまい。

 さらに首脳会談では互いの通貨をやりとりする日韓通貨スワップ(交換)の枠を現行の130億ドル(約1兆円)から700億ドル(約5兆4000億円)に拡充することで合意したとのことだが、表向きは、欧州金融危機の波及を防ぐため互いが通貨をやりとりできるようにすることにあるとされているが、ズバリ言って、ウォン安を回避するため韓国への資金支援枠を拡充してあげたようなものだ。

 というのも、ウォンの急落に悩む韓国は日本から調達した円を売ったりすることで、ウォンの急落に歯止めをかけ、ウォン買い・ドル売りのための資金を調達しやすくなるからだ。経済に陰りが見え始めた韓国にとってはありがたい限りだ。事実上の日本の金融支援ならば、やはりここは受け取る側の李大統領が礼儀として訪日してしかるべきではないだろうか。

 その一方、日本が韓国に締結を強く求めている経済連携協定(EPA)はどうなったかと言えば、「交渉の早期再開に向けて実務者レベルでの協議を加速化させる」との合意を韓国側から取り付けたとのことだ。野田訪韓でEPAが早期締結したわけでもなければ、締結に向けての早期交渉再開で合意したわけでもない。2004年以来中断している交渉を再開するための実務者協議を早めようとの合意で、これでは締結までにはまだまだ先が遠い。

 EPA交渉が中断している理由は、韓国が日本とのEPAを急ぐ必要性を感じてないことに尽きる。理由は簡単だ。日本とのEPAはメリットよりもデミリットが多いと考えているからに他ならない。

 事実、韓国はEUとは07年5月に交渉開始し、2年2か月で合意に達しているが、日本とはEUよりも3年半近く早い2003年12月に交渉を開始したものの04年11月に第6回会合を最後に7年間もストップしたままだ。この間、日韓首脳会談が開かれる度にEPA交渉の再開に向け、実務協議のレベルを審議官級に上げて、検討を加速することで合意を交わしている。従って、「加速化」での合意は何も今回が初めてではなく、毎度のことだ。

 韓国側が日本との交渉の場に出ない理由は、農林水産品関税撤廃の批准をめぐり対立が根本にあるからだ。

 韓国側は@日本の農林水産品関税撤廃率が不十分であるA年間300億ドルに上る韓国の対日赤字はEPA締結で関税が撤廃されればさらに悪化するB韓国市場が日本企業に奪われる等などの懸念を抱いている。韓国は日本の自動車や機械などに8%の関税をかけているが、関税が撤廃されれば日本の高品質の完成車や部品が韓国に安く流れ込んでくると自動車業界などが反発している。

 そもそも日韓の産業構造は似通っている(電子・電気機器・機械類・自動車・造船など)。韓国は主力輸出品である半導体、平面ディスプレイ等の生産のため日本製の中間財(部品や素材)と資本財(製造機械)などに依存する構造にあるので、FTAが締結されれば、現実には対日貿易赤字がさらに膨らむことになる。

 もう一つは、韓国は経済面では「脱日本」を図っていることだ。今では完全に日本よりも対中重視である。それもそのはずで、日韓貿易は韓国が中国と国交を結んだ1992年の310億ドルから2.5倍程度しか伸びてないが、中国とは92年の63億ドルから今では1000億ドルを軽く突破し、2000億ドルに迫る勢いにあるからだ。

 結論を先に言うなら、韓国は中国とのFTAが先で、中韓FTAなくして、日韓FTAはないというのが韓国の立場のようだ。

 こうしてみると、韓国が実効支配を強める竹島問題などの懸案を棚上げにしてまでの日本にとっての野田訪韓の成果とは何なのだろうか。