2008年7月15日(火)

反米は百万人、反日デモは数十人の現実

 日本政府は7月14日、中学校社会科の新学習指導要領解説書の中に竹島(韓国名・独島)を「領土問題」として明記した。この日本政府の発表に李明博大統領は直ちに「深い失望と遺憾」を表明し、政府に「断固として厳重な対応」を取るよう指示した。その第一弾が、権哲賢駐日大使の事実上の召還。李大統領自身が「深い失望と遺憾」を表明したのにはそれなりの訳がある。

 李大統領は対日外交を重視していた。そのことは、大統領就任(2月25日)後の最初の首脳会談の相手に福田康夫総理を選んだことにも現れている。

 国民から低迷する経済の再建を託された李大統領とすれば、日本の経済協力を得るためにも対日関係の修復が最優先課題である。それが故に4月に初来日した際にも「日本にもう謝罪を要求しない。これからは日本の政治家の言葉にいちいち敏感に反応することもない」と、過去や歴史認識に関する日本の言動を言わば黙認するような趣旨の発言をしていた。

 さらに在日韓国人の歓迎式典では一歩踏み込んで「過去を忘れられないが、過去だけにこだわって今を、そして未来を生きられるのか。私は未来に向かい日本と手をつなぐ」と語り、今後日本とは未来志向の関係を築いていくと公言していた。李大統領なりに日本との関係にはそれなり自信と確信があったようだ。ところが、1か月後の5月中旬、日本が中学校社会科の新学習指導要領の解説書に竹島を明記するとの方針が伝わるや心中穏やかでなくなった。

 洞爺湖でのサミット出席のため訪日した李大統領は福田康夫総理に対して竹島の領有権明記問題で「日本にとっては3年前に決定した事項であっても認めるわけにはいかない」と強い懸念を表明し、再考を促した。帰国後の先週(7月11日)党役員らとの会合で「どうなるかわからないが、日本はやならい可能性もある」と福田総理の決断に期待をかけていた。それが、意に反する結果となったわけだから「深い失望と遺憾」の表明は当然かもしれない。

 李大統領は、野党の民主党から「李明博政権の屈辱外交、無能外交が招いた結果である」と非難されたことに「私が『過去にこだわらない』と言ったのは、日本自らが歴史を鑑み、加害者として被害者への謝罪することを願ったからだ」と釈明に追われている。

 与党のハンナラ党までも日本を強く批判している以上、李大統領としてもこれ以上対日融和政策は取りにくい。それでなくとも、李大統領の日本での言動を指して「大統領は独島(竹島)を放棄した」との言われなき批判に見舞われているだけになおさらだ。むしろ米国産牛肉輸入問題や金剛山観光客射殺事件への対応をめぐって窮地に立たされている状況下にあって指導力の回復のための機会と捉えるかもしれない。

 その証左として、青瓦台は日本の決定の前日(13日)、「日本の独島領有権明記は絶対に容認しない」と仮にこの問題で一時的に日韓関係が悪化したとしても強硬な対応を取る方針を明らかにした。

 強硬方針として、独島の実効支配の強化や自粛している独島海域周辺の水産資源調査の再開など独島周辺生態系調査の強化を検討している。しかし、これは日本を牽制するための、世論を宥めるための一時的なポーズ、パフォーマンスのような気がしてならない。

 李大統領が、未来志向の関係を提唱したものの途中で「今度こそ、日本の悪い癖を直させなくてはならない」と切れた金泳三大統領や政権後半に「今度こそ、決着を付ける」と豹変した盧武鉉大統領の二の舞になるかは今後の世論の動向にかかっているが、日本にとって幸いなことは、韓国の国民が米国産牛肉輸入反対の時と違って今のところ極めて冷静なことだ。

 米国産牛肉輸入問題では1ヶ月以上にわたって連日デモが行なわれた。ソウルの広場に100万人が集結し、蝋燭デモが行なわれたこともあった。それに比べて、この領土問題では市民の抗議は、たった数十人程度に留まっている。関心がないのか、関心があっても抗議運動をするほどのものとみていないのか、それとも政府の対応を注視しているのか、過熱する政治家やマスコミの反応とはあまりにもギャップがあり過ぎる。

 李大統領としてはこの領土問題も金剛山観光客射殺事件同様ほとぼりが冷めるのをただひたすら待つだけのようだ。