2011年10月31日(月)

6か国協議再開の展望

 北朝鮮の核問題をめぐる6か国協議が開かれそうで、なかなか開かれない。

 ジュネーブで10月24、25日と二日間かけて行われた米朝高官協議について米朝代表とも「協議ではいくつかの隔たりを狭めることができた」(ボズワース北朝鮮特別代表)「大きな進展もあった」(金桂寛第一外務次官)と総括しながらも、「まだ見解の相違がある」(ボズワース代表)「差を埋められない問題があった」(金桂寛第一次官)と合意に達しなかった理由をそれぞれ語っていた。

 「隔たり」とは濃縮ウラン問題で、要は、米国が6か国協議再開への前提条件として提示しているウラン濃縮施設の稼働停止を北朝鮮が拒んだため米国が早期再開に首を縦に振らなかったことに尽きるようだ。

 双方の代表は、見解の相違を埋めるためには「もう少し時間と協議が必要だ」と今後も協議を継続することでジュネーブを後にしたが、次の米朝協議の日程も決まってないこともあって依然として年内の6か国協議再開の見通しは立ってない。

 来日したバーンズ米国務副長官は27日、都内で講演し、「米国は6カ国協議を再開させたい。そのために北朝鮮は(ウラン濃縮活動の停止などの)事前措置に取り組む姿勢を示してほしい」と強調していたが、金桂寛第一外務次官は米国が求める事前措置としてのウラン濃縮活動の即時停止には応じない考えを明らかにした。

 この問題での北朝鮮の立場は強固で、不変だ。

 北朝鮮はこの問題では譲歩する気が毛頭ないようだ。国連の制裁を受け、経済が疲弊しながらも2年近く経っても、一向に態度を変えないところをみてもそのことは明らかだ。

 金正日総書記はジュネーブ協議前に公開されたロシア国営イタル・タス通信の書面インタビューで6カ国協議について「無条件早期再開」を求める立場を強調した。換言すれば、無条件には米国も無条件で、前提条件を付けるならば、北朝鮮も条件を付けるというふうに聞こえなくもない。

 この点について北朝鮮外務省報道官は27日、ジュネーブ協議に関連した談話で「同時原則」を強調していた。同時原則とは即ち、「約束には約束」「行動には行動」で応えることであり、換言すれば「ギブ・アンド・テイク」ということになる。

 ウラン濃縮活動の停止は北朝鮮からすれば「ウラン濃縮は電力生産のための活動なので、止めることになると、それに伴う措置が必要になる」(金第一次官)との解釈となる。そして「それに伴う措置」とは、米国が人道支援として検討している一過性の食糧援助でなく、慢性的なエネルギー不足解決のための電力供給、即ち軽水炉の供与にあるようだ。

 従って、米国が事前措置として求めている6か国協議共同声明の遵守、ミサイル発射や核実験のモラトリアム、IAEA(国際原子力機構)監視員の復帰に応じることはあっても濃縮ウランの活動を一方的に止めることはなさそうだ。

 北朝鮮が強硬な理由は主に四つある。

 一つは、ウラン濃縮活動は、稼働を事実上停止し、ほぼ終了したプルトニウム型爆弾の開発に取って代わる新たな強力な外交カードになっていること。

 次に6か国協議議長国の中国が「ウラン濃縮問題は6カ国協議の枠組みの中で話し合われるべきものだ」(姜瑜副報道局長)と、「先6か国協議再開、後ウラン濃縮活動の停止」を主張し、北朝鮮に同調していること。

 第三に、レイムダックに陥りつつある李明博政権が南北関係で成果を上げる必要性から遅かれ早かれ柔軟な立場に転じる可能性があること。

 現に韓国政府高官はすでに昨年12月に「6か国協議(再開)の前提条件の基本は、北朝鮮がIAEAの常駐監視団を受け入れることであり、ウラン濃縮をやめなければ監視団を送れないわけではない」と述べていた。

 第四に、議長国の中国とロシアが6か国協議の早期再開を求めようが、米国はこの問題では「譲歩しない」との姿勢を貫いているものの北朝鮮の核問題では最終的な問題解決には対話が不可欠なことをオバマ政権が理解しているからだ。

 そもそも、6か国協議の無条件早期再開を強く求めていたのは北朝鮮側でなく、当初は米国側だった。

 北朝鮮が核実験を強行した一昨年、クローリー米国務次官補(当時)は記者会見で「北朝鮮と対話する用意はあるが、何よりも6カ国協議に復帰してほしい。6カ国協議の枠内で、2カ国による話し合いも可能だ」(8月14日)と述べていた。

 北朝鮮は当時、外務省報道官の談話で「6カ国協議が再び開催されるためには、同協議を破たんさせた原因がいかなる方法でも解消されるべきだ」とし、先に制裁を解除するよう要求し、さらに「平和体制を協議する前に非核化を進展させるというやり方は失敗に終わっている」として、6か国協議復帰への前提条件として平和協定を議題にすることも併せて要求していた。

 これに対してボズワース特別代表は「われわれは北朝鮮が6カ国協議に復帰し、非核化プロセスに進展があれば、平和協定について議論する準備ができている」と述べ、北朝鮮に早期復帰を促していたのは周知の事実だ。

 韓国もまた、李明博大統領が就任後初めて国連総会での基調演説で「北朝鮮は早期に条件なく6カ国協議に復帰すべきだ」と発言するなど、早期復帰で米国と歩調を合わせていた。しかし、昨年3月26日に起きた韓国哨戒艦沈没事件で言わば「攻守所」を変えた格好となった。

 クローリー次官補(当時)は事件発生から2日後の会見で、数々の問題の解決は6カ国協議を通じてこそ可能だとしながらも「北朝鮮が最初の措置を取ってこそ、多くのことが可能になる」と述べ、北朝鮮に初めて「先非核化」義務の履行を促した。キャンベル次官補も昨年7月15日、「北朝鮮が挑発を止め、非核化の義務を行う場合、北朝鮮と再び対話できる」と、対話の条件を提示していた。

 オバマ政権の究極的な目標は濃縮ウランを含む北朝鮮の非核化にある。

 IAEAからの脱退、脱退凍結、脱退を繰り返したように仮に北朝鮮が事前に濃縮ウランの活動の停止に応じたとしても、6か国協議が失敗すれば、活動の再開どころか拍車を掛けかねない。北朝鮮に濃縮ウランを放棄させることが米国の最終目標であるならば、何らかの形でその見返りを与えなくてはならないとの認識はブッシュ政権同様にオバマ政権にも共通している。

 それが証拠に米国が北朝鮮に遵守を求めている6か国協議共同声明の第4項には「北朝鮮は原子力の平和利用を有する旨発言した。他の参加者はこの発言を尊重する旨述べるとともに適当な時期に北朝鮮への軽水炉提供問題について議論を行うことに合意した」と書かれている。北朝鮮の非核化とエネルギー支援がセットになっていることは明らかだ。

 米朝がそれぞれの立場に固執したまま「隔たり」や「意見の相違」を今後埋められなければ、いつまで経っても6か国協議は再開されない。従って、6か国協議の再開には何らか折衷案、妥協案が検討されることになるだろう。

 折衷案としては、北朝鮮が食糧支援を見返りにIAEA監視員を復帰させ、ウラン濃縮施設を一回に限って視察させる案も考えられる。

 北朝鮮は昨年11月9〜13日に核専門家のヘッカー米スタンフォード大教授(元ロスアラモス国立研究所長)を招き、自ら進んで寧辺のウラン濃縮施設、及び1千基以上の遠心分離機を見せている。米国の核専門家らに見せて、IAEA要員らに見せられない理由はない。従って、米国が求めるウラン濃縮活動の停止も、IAEA監視員の停止確認作業6か国協議再開後ということになるのではないだろうか。

 オバマ政権内では北朝鮮核問題への現実的な解決策として「ONE YES, THREE NO」政策が真剣に検討されていると言われている。

 「ONE YES」とはプルトニウム型核爆弾をすでに手にしている以上、核保有国であることを黙認したうえで、北朝鮮と交渉に臨み、第一段階ではこれ以上、増やさない(ウラン核開発はしない)、これ以上改良しない(核実験はしない)、そして絶対に搬出させないという3点の「NO」で合意を目指すというものだ。その上で、最終段階で米ロからの安全保障と経済支援を見返りに核を放棄した「ウクライナ方式」を北朝鮮に適応し、保有している核爆弾を最終的に放棄させるという構想だ。

 オバマ政権は米中及び日ロの4カ国が北朝鮮への安全保障と経済担保をすることで最終的に北朝鮮に核を放棄させる道を模索している。具体的な見返りとしてはクリントン国務長官も再三にわたって言明しているように平和協定、関係正常化、経済支援の3点セットとなる。

 問題は6か国協議再開の時期だ。

 来年再選を迎えるオバマ政権にとって初の6か国協議は失敗が許されない。逆に協議の成功には前述したように核放棄と平和協定、関係正常化、経済支援の3点セットとのバーター取引が必須となる。

 北朝鮮との間で平和協定が結ばれ、国交正常化となれば、必然的に朝鮮半島及び北東アジアにおける北朝鮮の脅威及び朝鮮半島の緊張が大幅に減少されることになる。

 従って、北朝鮮の脅威や朝鮮半島有事を理由に正当化している普天間基地の辺野古移転問題で目途が立たない段階での6か国協議の早期再開は得策でないと仮にオバマ政権が判断していれば、「濃縮ウラン問題」を楯に6か国協議をもうしばらく引き延ばすことも考えられなくもない。

 米国の「待機戦術」は普天間基地移転問題とどこかでリンクしているような気がしてならない。